第21話
店から離れた2人は次に不思議な生き物の模型を飾っている出店に向かうことにした。先ほどの出店で女性から有力な意見を聞けたので、メアリの足取りが少し軽くなったようなテッドはしている。
「いい話が聞けたね」
「そうね。確かにあの人が言ってた通り、こっちの方が活気がある気はしてたの。それを見事に言い当てられたからね。これはもう進路は決定ね」メアリはずいぶんご機嫌になっている。
「僕もほっとしている」テッドが安心した素振りを見せると、メアリは突然止まった。
「どうしたの?」テッドが立ち止まったメアリの方を見ると、メアリは少し怒った様子だ。
「僕もほっとしている、ね。さっき、あっさりとあの場を離れようとしたこと、忘れてないわよね?」メアリから言われ、テッドは自分の不始末を思い出した。
「あれは・・・本当にごめん。一番大事な話だったね・・・」
「あたしにとってはね。テッドにとっては、そうじゃないみたいだったけど」
先ほどまでのご機嫌の様子が嘘のように、メアリはご立腹だった。テッドはどうしたらいいかわからず、メアリの様子を伺うも、何を言えばいいかわからず、立ち尽くしている。その様子を見ているうちに、メアリが笑い出す。その様子を見て、テッドは自分がからかわれいるのだと気がつく。
「メアリ、ひどいよ」
「ごめん、ごめん。だって、テッドのここ最近の様子だと、全然こういうことできなかったから・・・」
メアリが言う通り、最近の自分は彼女に心配かけてばっかりだった。彼女から見ても、調子が戻ってきたと思えたのだろう。ありがたいと思うが、それを言葉に素直にすることが恥ずかしくて、その場所からの移動を優先させてしまう。
「もういいよ。次行くよ」
「あ、うん。待ってよ」メアリが付いてくるのを見て、テッドは手を差し伸べる。メアリは少し照れながら手をとった。
「テッドはからかわれているときが一番輝いているよ」
「そんなことはない」テッドが不機嫌な表情をする。
「その顔もおもしろい」メアリは笑いをこらえている。
彼女の反応を見て、テッドはさらに不機嫌な表情をする。表情と裏腹に、テッドは足取りが少し軽くなった気がする。
2人で並んで歩いているうちに、変な生き物の模型を飾っている出店にたどり着く。店頭には女性がいて、2人がそろって、びっくりするぐらいに綺麗な女性だった。
「こ、こんにちわ」テッドは緊張しながら話しかける。
「あ、はい。こんにちわ。見学の方ですか?」
想像した通りの綺麗な声だったので、テッドはさらに緊張してしまう。手をつないでいたメアリは、テッドが綺麗な女性にすっかり見とれていることに気がつき、気に入らない気持ちになって、テッドの手を一方的に解いた。解かれたことに気がついて、彼女の方を一瞬だけ見るが、すぐに女性の方に視線を戻した。
「あの、ここは何の展示をしているんですか?」
「ここはですね・・・・・・実在したと言われる、昔の生物について研究していまして、これもその一種です。実際の大きさはこれの5倍くらいになるらしいです」
「ご、5倍ですか・・・・・・」
ご機嫌な斜めだったメアリも、その生物の大きさの説明をされて驚く。自分が実際に見たことがある、最大サイズの動物は、象くらいのものだ。しかし、この女性が説明したことをそのまま信じると、象3頭分くらいの大きさになる。そんな大きさで、しかも口の大きさが模型で見てもかなりでかいので、実際の大きさでは、人1人くらいは丸呑みできそうだ。想像しただけで怖くなり、メアリはテッドの手をまた握り直した。握り直された手の感触に、テッドは彼女を少しだけ見た。
「そんなでかい生物が昔はいたんですね」
先ほどまでの緊張した様子が抜けたように、テッドは冷静に女性と話し始めた。
「はい、そうです。わたしもまだ勉強を始めたばかりで、そんなに詳しくありませんが、何というか・・・・・・どの生物も愛くるしいんですよね」
女性は飾られている生き物の模型を丁寧に撫で始めた。その様子を見て、メアリはどこが可愛いのかと、あんまり共感できそうにないと思った。それはテッドも同じだったようで、綺麗な女性だと思っていたのが、すっかり変な人にしか思えなくなった。
「そ、そうなんですね。個性的ですね・・・・・・」
テッドは適当に話を合わせたつもりが、女性はその言葉を好意的なものと思ったようだ。
「そうなんです。この丸い大きなつぶらな目がなんとも言えないんです!他にもあるんです。どうぞ、見て行ってください!」
店番の女性は、勢いそのままに奥から別の生物の模型を引っぱり出してきた。その様子を見て、メアリもテッドも仰天する。
「す、すみません。僕ら、別の用事を思い出しましたので、もう失礼しますね」テッドは無理やり一礼して、その場を去ろうとする。
メアリもそのテッドの行動にならい、一礼してからテッドのあとに続く。
「え、ちょっと。もうちょっとお話しましょうよ!」
女性の大きな声がこだまして、周りの視線が集まる。そんな視線を気にしている間も無く、テッドとメアリは、一目散にその店から遠くに向けて走った。
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