第20話
受け取ったイヤホンをテッドが、メアリと自分の耳にそれぞれ装着する。テッドがメアリの耳に優しく付けている様子を見て、青年は楽しそうに笑った。
「本当に仲がいいんですね」青年が2人のことをからかう。
「いや、そういうのじゃないんですが・・・・・・」テッドが話しているのも構わずに、青年は機器の電源スイッチを入れる。
「聞こえますか?」青年が話しかけると、テッドとメアリは驚いて耳を疑う。
「聞こえますけど、声が・・・・・・変わって聞こえます」
「そうなんです。この機器は受け取った音を変換して、受信者に伝えます。だから、今聞こえている声は先ほどまで聞いていた僕の声とは全然違いますよね?」
青年とは別の人間に話しかけられている錯覚を覚える。テッドとメアリは同じタイミングで青年に向かってうなずく。その動作を見て、青年が笑いそうになる。
「これも先ほどの話に出ていた先輩が発明されたんですか?」
「そうらしいです。僕も詳しいことは知りませんが、その人が先ほどのメガホンと同じように、この機器を開発したそうです」
「へぇ、その方は今、どちらにいるんですか?」テッドが尋ねると、青年は顔を横に振った。
「わかりません。ゼミの先生も今どうしているのか、ご存じないそうです。残念ですが・・・・・・今どうされているのかは、僕も気になります」
「そうですか・・・・・・」青年と同じように、テッドも残念に思った。
「でも、話を聞いているだけでもすごい方だと思います。ひょっとしたら、どこかでお会いできるかもしれないし、名前だけでもわかりませんか?」
メアリが興味本意に尋ねると、青年は「ちょっと待ってください」と言って、店の裏に入って行った。
しばらくして、青年が再び出てきて、2人に手に持っていた資料を見せた。
「ここですね。ここに書かれている名前がそうです。名前は・・・・・・エドワード」
「エドワード・・・・・・」
「エドワードさんね・・・・・・」
青年が持ってきた資料には、開発者の名前が記載されていて、その名前を記憶に刻んだ。
「ありがとうございます。貴重なものを拝見しました。ここ以外にももう少し見てみたいので」テッドがその場を離れようとする。
「ちょっと待ってよ」メアリがそれを止める。
「え、何?メアリ、まだ何かあるの?」
「あるわよ」メアリはテッドに少し怒ってから、青年に笑顔で話しかける。
「あの、ここの大学校って、どれくらい女性の学生がいらっしゃるんですか?」
メアリが言った言葉を聞いて、テッドはしまったという表情をする。自分が言い出したことなのに、すっかり忘れてしまっていた。
「そうですね。はっきりとわかりませんが、結構いるのは確かですよ。僕が今所属している、このゼミも半数は女性ですから」
「そうなんですか?」メアリは意外なことに驚く。
「そうですよ。意外かもしれませんが、全国から集まってくる女性の割合は、セントラルより多いと聞いたことがあります。僕はここから3時間も離れた村から出てきてますけど、知り合いの何人かもバードルに進学しています。だから、実家から離れた場所に暮らしていても、それ程さみしい思いはしていません」
青年はそう言ってから、店の奥を向いて「ちょっといい?」と誰かを呼び出した。奥から現れたのは、少し背の高い綺麗な女性だった。
「あれ、お客さん?どうかしたの?」青年を見てから、テッドとメアリの方に目を向ける。
「彼女は、僕と同じ故郷から出て来ている人です。それから・・・・・・」
青年はメアリの方を手で示しながら、店の奥から出て来た女性に話をする。
「彼女がどれくらいの女性がここに通っているのか、知りたいらしくて。良かったら、何か教えてあげて」
「別にいいですよ。何でも聞いてください」青年が紹介してくれた女性は、気前よさそうにメアリに話しかける。
「単刀直入に聞きたいんですが、どうしてバードルを選んだんですか?セントラルの方が賑やかでいいかなと、あたしは思ってたんですが・・・・・・」
メアリの質問に、女性は少し考えてから答えた。
「そうね。最初はわたしもそう思った。でもね、学生の活気がやっぱり違うと思う。あっちはここに比べて、施設は立派だし、人もたくさん来るけどね・・・・・・最終的に学生生活で楽しそうなのはこっちかなと思ったの。もっといろんなところを見たら、わかると思うけど、面白い学生が多過ぎて、ここは退屈しないの」
女性が楽しそうに話す様子を見て、メアリは真剣にうなずく。メアリの様子を見て、テッドは積極的に色んなことを教えてくれる女性に心の中で感謝していた。
「だからね、セントラルよりこっちにおいで」
「はい、わかりました!」メアリは店番の女性の話に完全に引き込まれていた。
「僕もセントラルよりこっちの方が面白いと思うよ」
「はい、わかりました」メアリは青年の方を向いて、笑顔で答えた。
「メアリ、そろそろ移動したんだけど・・・・・・」
「あ、うん。わかった」メアリはようやくその場を離れようとする。
「ありがとうございました」テッドが一礼すると、メアリも一礼する。
「いえいえ、こちらこそ。来年、楽しみにしているからね」
青年が手を振りながら答えた。隣の女性も笑いながら、手を振っている。2人に手を振りながら、テッドとメアリはその場を後にした。
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