第19話
人混みの中から抜け出し、テッドは周囲を見渡した。見てみたいと思える展示をしている店を探してみるが、パッと見ではわからない。
「テッド、あそこ見に行ってみない?」
メアリが指差す方を見ると、変な生き物の模型が飾っていた。見たことがない生き物の展示は確かに面白そうだ。テッドは、いつも面白いものを見つけるのはメアリだなと思った。ひょっとしたら、彼女にはそういう才能があるのかもしれない。自分は好奇心が強い性格だと思っていたが、彼女の方がよっぽど強いと思う。ここまで来てなんだけど、どこに行くかは彼女の意見にほとんど合わせた方がいいんじゃないかと、彼女には内緒でテッドは思った。
「確かに面白そうだね。見に行ってみようか?」
「そうね。でも、あっちもちょっと気になるの」
メアリは、先ほどと別の方向を指差した。その示した先をみると、セントラル大学校で見た、天使の輪の形とした楽器が目に入った。
「メアリ、あれはセントラル大学校で見たのと同じだよ」テッドがメアリに言うと、メアリはテッドの方を見て、不思議そうな顔をしていた。
「なに言っているの?そうじゃなくて、その横にあるもの、見えない?」
「横にあるもの?」
メアリに言われ、テッドは視線を戻す。天使の輪の形をした楽器の横に、メガホンが置かれていた。それがどう不思議に思ったのか、テッドはいまいち理解できないようだ。
「あれが置いてあることの何が不思議なの?」
「あの楽器を扱っているゼミって、セントラルでは、えっと、確か・・・周波数だっけ?そう言ってたじゃない?あそこもそういうことについての技術を扱っているところだと思うんだけど、そこによく街の集会で使っているメガホンが置いてあるのが何か怪しく思えて・・・・・・」
テッドはメアリの言うことに一理あると思った。日常でなかなか見ないもの、日常でよく見かけるものがセットで置かれていることに何かあるかもしれない。テッドも同じように興味を持つことができた。
「確かに怪しいね。いや、怪しいという言い方はあんまり良くないかもしれないけど、目の付け所として面白い。確かに、あの楽器の横になんでメガホンがあるんだろ?ちょっと見に行ってみようか?」
テッドとメアリはうなずき合って、早速そのお店に向かった。途中、人混みの中を再び通ることになったが、興味が背中を押したようにどんどん人々の間をすり抜けて、先に進んでいく。人混みを抜けると、目標としたお店は目の前だった。店頭には若い青年がいたので、テッドはその人に出店しているものについて聞いてみた。
「ここは周波数の技術について研究しているゼミですか?」
「ええ、そうですよ」
「これは楽器ですよね?」
テッドが店頭に飾っている、天使の輪の形をした楽器を指差して質問すると、店番らしき青年は目を大きく見開いて驚いていた。
「よくご存知ですね。ちなみは楽器名はミュートンと言います」
「ミュートン・・・へぇ」テッドが言うと、その反応に青年は笑った。
「この楽器の存在は知っているのに、名前はご存知ないんですか?まぁ、全然有名じゃないですからね。ちなみにこれをどこで見られました?」
「セントラル大学校へ文化祭に行ったときに拝見しました」
「あ、なるほどね。あそこにも周波数の研究をしているゼミがあるんですよね」
店番の青年は楽器の電源スイッチを入れた。セントラルで初めて聞いたときと同じような音が聞こえる。テッドがあのときと同じように演奏してくれるのかなと思っていたら、メアリが青年に質問を始めた。
「その隣にあるメガホンは何ですか?普通のものと違って、スイッチみたいなものが付いてますけど?」
「これですか?確かに普通のものと違いますね。というか、これについてよく気になりましたね。あんまり注目されないんですけど・・・」
青年がメガホンを手に取り、電源スイッチを入れる。
「聞こえますか?」
テッドとメアリに向けて、青年はメガホンを通して話しかける。声の大きさが当然大きくなる。メガホンからの声に驚き、何人かの人が振り返っている。
「聞こえますよ」メアリが耳を少し押さえながら答える。
メアリの様子に店番の青年は笑いながら、メガホンに付いている端末を操作し始めた。それから、同じように声を発した。
「聞こえますか?」
青年が次に発した声は、先ほどメガホンから聞こえた声とは異なり、非常に高い声になっていた。男性が話しているはずなのに、女性が話しているように聞こえる。
「すごいですね」
テッドは驚いた表情をして、青年が手に持っているメガホンに興味津々だ。
「これはですね、このメガホンに声を通すことで、音の大きさや声質を変えることができる機械です。さまざまな周波数に値をコントロールできるので、いろいろな声を出すことが可能です」青年は誇らしげに語った。
「これはあなたが開発したんですか?」
「残念ながら、僕じゃないんですよ。僕の先輩が作りました。先輩と言っても、卒業してしまった方なので、会ったことはないですが、とても優秀な方だったようです」
語りながら、青年は奥の方から別の機器を取り出してきた。
「それは何ですか?」メアリが聞くと、青年は待ってましたとばかりに、快く説明を始めた。
「これは先ほどのメガホンと逆ですね。聞く時にその音が変換されて聞こえます。試しにどうぞ」
青年は機械からイヤホンを取り出し、テッドとメアリに差し出した。
「テッド、聞く?」
「うん、僕は聞くけど、メアリはいいの?」
「あたしも聞きたいけど、一人分しかないし・・・」メアリは遠慮しようとした。
青年が差し出したイヤホンは1組しかない。
「片方ずつ付ければいいんじゃないですか?」青年が2人に提案する。
「そうですね」テッドが答える。
「いいの、テッド?」メアリが尋ねるのに対し、テッドは彼女が何に戸惑っているのかわからない。
「何か駄目な理由ある?」
「いや、何というか、2人でイヤホンを片方ずつ分け合うのって、恋人同士みたいじゃない?」
メアリから言われ、「え?」とテッドは思わず声に出して驚いてしまう。
「あれ、違うんですか?」何故か青年が意外そうな反応を見せる。
「え、えっとですね・・・」テッドは青年に何と説明しようかと考える。
迷った末にテッドは、「じ、時間の問題ですが、まだそこまでの関係じゃないです」と答えた。
「ちょ、ちょっと」メアリはテッドが言ったことに驚く。
「そ、それは余計なことを聞いたかもしれませんね。なるほど、そういうことなら・・・やっぱり片方ずつ付けたらどうですか?」
青年は改めて2人にイヤホンを差し出した。テッドがそれを受け取る。
「あ、では、お言葉に甘えて・・・・・・。あれ、メアリはいいの?」
テッドはメアリに片方のイヤホンを渡そうとするも、彼女は受け取る様子がない。少し怒っているように見える。
「あれ、いいの?じゃないわよ。あんな恥ずかしいこと言っておいて、よく平然していられるわね」メアリはやっぱりご立腹の様子だ。
「ご、ごめん」テッドはいつもの調子で、ついつい謝ってしまう。
「もういいわよ。さっさと聞きましょ」
「は、はい」
テッドはメアリの気迫に押されながら、青年から受け取ったイヤホンの片方を彼女の耳に装着した。
「ありがと」
メアリは先ほどまでの不機嫌がどこに行ったのか、感謝の言葉を述べて、テッドの行為を受け入れた。
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