第18話

 駅からバードル大学校への道のりは、15分程度だった。途中からは傾斜のある上り坂がずっと続いたので、テッドはメアリの足の状態を心配しながら歩いたが、痛みを感じている様子が全くなかったので、テッドは少し安心できた。ゆっくりではあるけど、メアリを連れて、無事にバードル大学校の門の前まで辿り着くことができた。ここに来るまでの道中に、喫茶店や雑貨店などの店の類が何もなかったことが、メアリは気になっていた。テッドに遊ぶところが全然ないねと話をしようと思って、彼の方を見たが、テッドはようやくたどり着いたバードル大学校を目の前にして、感動しているように見えた。


「ここがバードルか・・・・・・」

 テッドはバードル大学校を見て感銘を受けているようだが、メアリにはさっぱりわからない。セントラル大学校に比べると、今のところ、地味なイメージしかわかない。ここに来るまでに大勢の人がいたのは確かだ。外から見ても、今日が文化祭ということで、校内にそれなりに人が行き来している様子はわかるが、セントラル大学校のときは、もっとたくさんの人が集まっていた。はっきり言って、活気が全然ちがうとメアリは思った。セントラル大学校に比べて、実践的な教育に力を入れているという話を聞いていたので、文化祭でもこんなものなのかと思ってしまう。


「テッド、早く中に入らない?」メアリはテッドの服の袖を引っ張りながら、声をかけた。

「あ、うん、そうだね。そうしようか」

 テッドはメアリから声をかけられて、彼女の方をようやく見た。

「ここって、本当に遊ぶところもないし、おしゃれな喫茶店とかもなさそうね。女の子に人気あるの?」

 メアリはいろいろと不安が出てきたようで、テッドに真剣に質問する。


「え?」テッドはメアリの方を見ながらも、何と答えればいいか、言葉に窮する。

「女の人がどれくらい通ってるか、知りたいんだけど、その点は全く調べていないの?」

「あ、うん。ごめん、それは知らないや」テッドは正直に謝った。

「そうなの・・・」メアリは先程よりさらに不安な表情を作る。

「この機会に学校のこと、あたしはもっと知りたい。せっかくここに通うつもりになったんだもん。今のうちに知れることは知っときたい」


 メアリはやる気満々だ。まだ、メアリがここに通えることが決まったわけではないが、テッドもメアリと同じ学校に通いたいと思っている。そのため、彼女が不安に思っていることをできるだけ取り除くことはどうしても必要なことに思えた。

「わかった。もう少しこの学校のことを一緒に調べてみようか?あそこに学生さんがたくさんいるし、出店の展示を見せてもらうついでに、ここのことも聞いてみようよ」


 テッドが指差した方向に視線を向けると、セントラル大学校のときと同じように学生が出店している様子が少し見える。セントラルは、入り口の門から大きな通りが見えて、その通り沿いに店が左右に綺麗に並んでいたから、すぐに校内の活気が目に入った。それに対して、バードルでは、門から中を覗くと、校舎がいきなり目の前にあったりして、門の外から校内全体がはっきりと見えないので、中がどうなっていのか判別しにくい。だから、メアリはあんまり活気がないように外から見て感じた。


「ねぇ、テッド。バードルって文化祭にあんまり力を入れていないということはない?」

「どうして?」テッドはメアリの質問に首をかしげる。

「だって、セントラル大学校の時に比べると、全然人が少ないように見える」

「確かに。でも、ここからじゃまだわからないよ?」


 テッドはメアリの手を引いて、校内に入っていく。メアリは連れられて入っていくも、やっぱり賑わいが大したことないように思えた。徐々に奥に入っていくと、たくさんの出店が存在する様子が徐々に見えてくる。次第にメアリは自分の見解が大きく間違っていたことに気づかされる。奥に行けば行く程、校内の全体が少しずつわかってきた。校内の賑わいだけを考えると、セントラル以上だと思えた。


 大きな通りに沿って、綺麗に出店が並んでいたセントラルと違い、バードルでは出店があちこちに点在している。その点在の数が尋常じゃない。バードルの敷地内は所狭しと校舎がたくさん存在する。その校舎の間を縫うように出店が展開されている。訪れている人の数は、セントラル大学校の数に比べると少ないが、学生が純粋に文化祭を楽しんでいる様子が目に見えてわかり、賑わいはバードルの方が上に見える。場所によっては、人の密度が高くなり、通りにくくなってる。徐々にセントラルの時と同じように、人の間を縫うように移動することしかできない。


「テッド、狭いよ」メアリはテッドに文句を言う。

「ご、ごめん。ちょっと待って」テッドは周囲を見渡す。

「あっちに行こうか?」テッドは人混みがない場所を指差して、メアリの方を向く。

 メアリは黙ってうなずいて、しっかりとテッドの手を握り直す。絶対に放さないと力強く握る。テッドに手を引かれるまま、しばらく移動した場所で、ようやく人混みから抜け出せた。


「すごい人の数だね」テッドが呑気に感想を言う。

「本当にね。でも、安心した」メアリは笑って答えた。

「安心したって、何が?」メアリの言葉に戸惑い、テッドはその真意を探る。

「思ったより楽しそうなところね。そう思ったの」メアリの笑顔が言葉の意味を証明していた。

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