第3話

 テッドが玄関の扉を開き、家の中に入ると、テッドの母が出迎えた。

「ただいま」テッドは靴を脱いで、家に上がる。

「お帰りなさい、テッド。今日もメアリちゃんと一緒だったの?」

「うん。さっきまで一緒だったよ」帰るなり、母からメアリの話題が出たことに戸惑う。今日は、何だか気持ちの揺さぶりが多い日だなとテッドは思った。

「そうなの?そう言えば、メアリちゃんもどんどん大人っぽくなってるわね。彼氏の1人でもいるんじゃない?それともひょっとして付き合ってるとか?」

「そんな訳ないよ。僕が見た限りだと、メアリに彼氏はいないよ」

「好きな人は?相談されたりしてない?」

「何で僕にそんなことを聞くんだよ。メアリ本人に聞けば?」

 家に帰るなり、テッドは母親とのやりとりにうんざりした。何を自分から聞きたいのかよくわからない。そんな表情が出ていたのか、テッドの母もうんざりした表情をした。


「あなたからそういう話が出てもいい年齢だと思ったのに。その反応はつまらないわ」

「帰ってくるなり、自分の息子につまらないってひどくない?」

「彼女ができそうとか、そんな話はないの?」

「・・・・・・」テッドは咄嗟に答えられない。

 ないよの一言で済ませようかと思ったが、母親のつまらないの一言にテッドは何か言い返したくなった。あまり踏み込んだ話をする気はないが、メアリの話が出たので、学校の帰りに2人で話した内容を言うくらいはいいかという気持ちになった。


「メアリが僕と同じ大学校に行きたいって言ってた。だから、僕が勉強を見てあげることにした」

「あら、それはちょっと面白いわね。それで、どうなの?今からメアリちゃんの家に行くの?」

「いや、今日は特にそこまで約束してない。多分、一緒に勉強すると言っても、図書館とかを利用すると思う」

「電話して、今からでも誘ったら?」

「今から?何で?」

「向こうから言い出したんでしょ?それはちょっと期待できるわね」

「わかるの?」

「同じ女性だもの。わかるわよ」母は自信があるようだ。

 母の言葉にそのまま乗るのも気が引ける。テッドは迷った。さっき別れたばかりのメアリにそんなことを期待している素振りは、微塵も感じられなかったが、ひょっとしたら今日からと、本心では思っていたのかもしれない。そう思うと、メアリの家に電話してみようかと考える。


「ちょっと電話してみる」

「頑張ってね」

 テッドは母親に乗せられている自分をまぬけに思ったが、心の中では少しだけ期待していた。わずかな期待を確認したい気持ちにさせられた。家にある電話の受話器を取り、メアリの家の電話番号を入力する。入力後、しばらくして、通信音が聞こえ、その数秒後にメアリの母が電話に出た。


「はい」メアリの母の声に少し緊張してしまう。

「あの、テッドです。こんばんわ」

「あら、テッド。こんばんわ。メアリ?ちょっと待っててね」

 テッドが返事する間も無く、メアリの母は電話の向こう側でメアリを呼びに行ってしまった。しばらく待っていると、メアリが電話に出てきた。


「こんばんわ、テッド。何か用?」

「えっと、さっき約束した、勉強を見るっていう話だけど、今日からどうかなと思って」

「え、今日から?別に明日からとかで大丈夫よ。いくら何でも急すぎない?一緒に勉強すると言っても、図書館とかで考えてたし、さすがにあたしの家に来て貰うっていうのも何だか、ちょっとね」

 メアリが言ったことは、テッドが考えていたことと全く同じだ。テッドは母親に乗せられたことを少し後悔した。メアリから変に思われないか、だんだん心配になってきた。今すぐ電話を切りたくなってきたが、さすがにそれは失礼になるので、実行できない。


「そうだよね。僕もそう思ってたけど、一応確認というか・・・・・・明日からでいいよねということを確認したかっただけというか・・・・・・」

「何?ひょっとして期待してた?」メアリの声が弾んだような気がする。

「いや、そういう訳じゃ・・・」テッドはさらに歯切れが悪くなる。

「まぁまぁ、テッドにしては積極的ね。でも残念だけど、今日は期待に応えられそうにないわ。気持ちは嬉しいけど、ごめんね」

「だから、違うんだけど・・・」

「違う?何が違うの?」

「えっと・・・」テッドの言葉が途切れる。

「歯切れが悪いわね。そんなことじゃ、女の子にモテないよ?何?」

 テッドは迷ったが、最終的にもうどうにでもなれと、思いついた言葉を口にした。


「ごめん、何というか、もう一度声も聞きたかったというか・・・・・・」

調子の良かったメアリの言葉が止まる。

「あの、メアリ?どうかした?」

「テッドが変なこと言うから、びっくりしただけよ。何考えてるの。もう切るわよ」

 そう言われ、一方的に電話を切られてしまった。また怒らせてしまったようだ。明日謝った方がいいかもしれない。テッドが反省をしていると、横に母親が近づいていることに気がついた。


「何?」テッドは少し不機嫌な態度で応じる。

「意外とロマンチストなことを言うのね」

「あ、うん。確かに」テッドは落ち込んでいるのか、対応が素っ気いない。

 さっきの言葉をメアリはどう思ったのか。言った自分が恥ずかしくなる程の内容だっただけに、今更ながら明日メアリと面と向かって話ができるか不安になってきた。

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