第46話 大団円
ここはおばあちゃんの家だ。十年前におばあちゃんがなくなってからはもう行っていない。
縁側の向こうにはとうもろこし畑があって、さらにその向こうには鬱蒼とした雑木林が広がっていた。
遠くには緑の山々が連なっていて、その背後には真っ白な入道雲と、抜けるような青空があった。
「おばあちゃん、僕、女の子になっちゃったんだ」
僕は縁側に座っているおばあちゃんに言った。僕の姿はリリスのままだった。メイド服も着ている。
「ほにほにほにほにめんごいごった」
おばあちゃんがにこにこしながら言う。そして、茹でたとうもろこしを取り出し、
「け、け」
「ありがとう」
僕はとうもろこしを受け取り、むしゃむしゃと食べる。
「今からね、僕もおばあちゃんのところに行くんだよ」
ばしぃぃぃん!!!
いきなりビンタされた。痛ぇ……。
「ばかこ! ごっぢぐんでね! ほにほにほにほにほにほにほにほに……」
おばあちゃん、ずーっと気になってたんだけど、「ほにほに」って何……?
…………
………
……
…
「おばあちゃん……」
「おい、私はそんな歳じゃないぞ」
「ん……ううっ……レズビア……?」
目を覚ますと、レズビアの顔があった。僕はベッドに寝かされているみたいだ。
「リリス! よかった……」
レズビアが僕に抱きついてきた。ぼろぼろと涙をこぼしている。
「僕、死んだんじゃ……」
「ばか、こうして生きているではないか」
「えっと、おなか刺されて……」
けど、痛みはまったくない。傷も完全にふさがっているみたいだ。
魔王が僕のベッドのそばに来て、
「魔界じゅうから医者や魔術師を呼んだんだ。君を助けるためにね。レズビアも毎日君のために頑張ってくれていた」
「レズビア、ありがとう」
「メイドを助けるのが主人の役目だからな」
「あ、そうそう」
魔王が言う。
「私もリリスちゃんに抱きついていい?」
「何を言っているのだ、このクソジジイ」
レズビアが一蹴する。
「魔王様、腕は……?」
「これか? うまいことくっついた。魔王だからな」
そうか、魔王だからか。
「あの、瀬崎くん……じゃなくて、『伝説の勇者』は?」
「ああ、やつなら、僧侶と魔法使いに治癒魔法の応急処置を施させて、それからおとなしく帰ったよ。これからうまいこと人界と和平交渉が進むかもしれない。リリスちゃんのおかげだねえ」
また会えるかどうかわからないけど、とにかく瀬崎くんが無事でよかった。
「僕、ただおっぱい丸出しにしただけなんですけどね」
「今回のことは、『伝説の勇者』が淫魔族のおっぱいに魅せられておとなしく帰った、ということにしてある。おっぱいが魔界を救ったのだ」
「あの、もっといい名分なかったんですか……」
部屋の隅にドラゴンのワイちゃんがいて、彼が、
「ただの淫乱クソビッチだと思っていたが、見直したな」
なんてことを言う。
ここ病室みたいだけど、そのでかい図体、どうやってここに入れたの?
「僕はただの淫乱クソビッチですよ~」
「リリス、これからずっと、私のところから離れるな」
「レズビア、リリスはペロンチョ界の人間だ。『伝説の勇者』でないことも明白だ。元の世界に帰してあげなさい」
「リリスは私と一緒にいる! どこにも行かないで……」
「レズビア……」
「わがままを言うな。アルビンが白状した。君を元に戻すように術を組んでたんだってな」
「はい。僕が頼んだんです。色じかけで。だからアルビンは許してあげてください」
本来なら、「伝説の勇者」かもしれない人間を元の世界に帰すなんて魔族に対する裏切り行為だ。僕は彼に対して悪いことをしてしまった。
「それは別に問題ない。君が『伝説の勇者』として人界に召喚されても、魔界に攻め入ってくることはなかっただろうし、そもそも九割がた『伝説の勇者』じゃないと思ってたし」
「それならよかったです。えっと、ベリトさんは?」
「地下牢に閉じ込めてある。処分は私が決める」
と、魔王が言った。
「それでだ、もうあまり時間がない」
「え?」
「君はまる二日くらい寝てたわけだ。そろそろ時間だ」
「そんなに寝てたんですか……。カーミラとかスウィングにお別れを言う時間は……」
「もうないね」
「いやいやいやいや!」
レズビアが僕の身体をぎゅっとしてくる。
「行くな行くな行くな!」
僕は彼女の髪をそっと撫でる。
「ごめん……」
※ ※ ※
「お前みたいな淫乱ピンクがいなくなって、清々するな」
と、アルビンが言う。
ここは魔王城の召喚室だ。アルビン、レズビア、魔王がいる。
僕は部屋の床に描かれた紋章の上に立つ。ここに来たときの、黒い下着の姿で。
「ほんとは僕とヤりたかったくせに」
「お前、自意識過剰すぎるぞ」
「リリス!」
レズビアが泣きじゃくりながら再び僕に抱きついてくる。
「どうして行くんだ、ばか!」
「また会えたら、みんなで海とか山とか行こう?」
「そんなこと言うならここに残ればいい」
「ごめん。でも、行かないと」
「レズビア、離れろ、そろそろ時間だ」
と、アルビンが言う。
僕はレズビアの身体をきつく抱きしめる。
それから彼女はしょげた様子で僕から離れる。本当に僕も心苦しい。心臓がきりきりと締めあげられるみたいだ。
急に部屋の明かりがまぶしく感じられてきた。
レズビアの姿がかすんでいく……。
やがて視界が真っ白になった。
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