第42話 寮の部屋で

「ううっ……父さん、母さん……」


「リリス、起きろ。おい、リリス!」

 レズビアの声が聞こえてくる。


「むにゃ?」

 僕は目を覚まして、目をこする。

 めっちゃ目やについてる。


「おい、朝だぞ。起きろ」

 レズビアが僕の肩に手をかけていた。


「わああああ!」

 僕は慌ててレズビアから飛びのく。


「な、何だその反応は」


「えっと、レズビア、何もしてこないの?」


「尻を剥いて叩こうとしたが、リリスが泣いていたから、やめたのだ」


「僕、泣いてた? てか、何やろうとしてたんだよ……」


「リリス、さっさと顔を洗ってこい」



   ※   ※   ※



 じょろじょろじょろじょろじょろじょろじょろじょろ……。


 僕はトイレでおしっこしている。もうトイレにも慣れてしまった。


 今日はレズビアに、寝起きに攻撃されずに済んだな。

 もしかして、毎日泣いてれば、レズビアに乳揉まれたり、尻尾引っ張られたり、角削られたり、ケツ叩かれずに済む?


 じょろじょろじょろ……じょろ……じょろ。


 ……はぁ。父さんと母さん今頃何してるかな。

 この時間なら、父さんはもう仕事に行って、母さんはワイドショー見てるかな。ペロンチョ界では今どんなことが起こってるんだろう。最近きな臭いことも多いし。


 もしかしたら、浦島太郎みたいに何十年も過ぎていたりして……。

 そんなことは考えないようにしよう。


 とにかく、明日の舞踏会楽しむことにしよう。



   ※   ※   ※


 

 僕とレズビアで部屋を出るとき、ちょうどアルビンと会った。


「アルビン、おはよう」


「お、おう」


「一緒に学校行く?」


「「なんでこいつなんかと一緒に……」」

 アルビンとレズビアが、お互いを見ながら、同じタイミングで言った。


「やっぱりレズビアとアルビンって、仲いいんだね~」


「おい、リリス、乳もぎ取るぞ」


「ひえっ……」

 僕の乳、果物とかじゃないからもぎ取れないですよ。

「でも、行き先同じだし」


「勝手についてくればいい」


「お前らが俺のあとを勝手についてくるんだ」


「と、とりあえず、一緒に行くってことでいいんだよね?」


「面倒だから、もう何でもいい」

 アルビンが歩き出す。

「そうそう、お前ら、明日の舞踏会に出るんだってな」


「誰から聞いたんだ?」


「カーミラから聞いたんだ」


「あのチスイコウモリ、口が軽いな」


「でも、別に秘密にしておくことじゃないし」

 と、僕は言う。


「たしかにそうだが」


「まあ、俺も出るんだけどな」


「そういえば、貴族とかって言ってたね。レズビアと一緒に踊るの?」


「「誰がこいつなんかと一緒に……」」


「やっぱ仲いいんじゃん」



   ※   ※   ※


 

 その日の放課後――


 カーミラが僕とレズビアのところに来て、

「ねえねえ、リリスちゃん、レズビィちゃん、今日はあたしとスーちゃんの部屋に行こう?」


「えっと、寮の部屋ってこと?」


「そうそう」


「てか、ふたりってルームメイトだったの?」


「そうだよ、知らなかった?」


「うん、初耳」


「まあ、部屋けっこう汚いけどねっ」


「だいたい汚しているのは、カーミラよね……」

 スウィングが呆れたように言う。


「えへへ」


「誰も褒めてないわよ!」


 

   ※   ※   ※



 そんなこんなで、僕とレズビアは、カーミラとスウィングに誘われて、魔界学園の女子寮に行った。


 おお、周りは女子ばっかだ。なんかすごく女の子のにおいが充満している。

 ただ、洗濯物がそこらじゅうに干してあったり、ゴミが散らかってたりと、生活感がすごい。


 五階のいちばん端の部屋が、カーミラとスウィングの部屋だった。


 ドアを開けると――


 マジで散らかってるし。

 

 空いたペットボトルとか、雑誌とか漫画が床に散乱しているし、靴下とかブラジャーがベッドのへりからぶらーんと垂れ下がっている。


「ちょっと散らかってるけど」


「ちょっとどころではないだろ」

 レズビアがやれやれといったふうに言う。


 彼女たちの部屋はとても狭く、四体が入るとかなり窮屈だった。


 中央に背の低いテーブルがあって、右側に二段ベッド、左側にはふたつの机、奥にはタンスがあった。


「リリスちゃんと、レズビィちゃんはそこに座ってね」

 と、カーミラはベッドを指す。


 僕とレズビアは、そこに腰掛けた。カーミラとスウィングは床に座る。


「リリス、その乳じゃまよ。かなりの空間占有してるじゃないの」


「そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか」


「リリスちゃん、スーちゃんって、そこのタンスでモヤシ育ててるんだよ」


「余計な情報伝えなくていいわよ!」


「あとでオキュラちゃんとテレちゃんも来るって」

 カーミラがスマホを見ながら言う。


「ここ入らないわよね」


「大丈夫、大丈夫」

 と、カーミラは呑気な調子で言う。

「お菓子買ってきたからね。みんなで食べよう? 舞踏会前の前夜パーリーしよ」


 カーミラは袋をごそごそとやって、謎のお菓子を広げる。


「これは、リリスちゃんのための触手チップス」


「ちょっとトラウマが……」


 触手モンスターに苗床にされそうになった記憶がよみがえってくる……。


「あ、そうそう、みんなで大富豪やろうよ」

 と、言って、カーミラがトランプを取り出し、カードをシャッフルする。


「大富豪?」

 世界中で同じような遊びがあるって聞いたことあるけど、魔界にもあるんだ。


「皮肉な名前だな」

 と、言って、レズビアがスウィングを見る。


「何よ、下剋上してやるから、覚悟しなさい」


 カーミラがみんなにトランプを配っていく。


「これ、なんか違くね?」

 トランプを見ると、謎のマークがついている。しかも数が多いし。


「あ、リリスちゃん、知らないの?」


「ま、まあ……」


「えっとね、『翼』、『尻尾』、『角』、『目玉』の4種類のマークがあって、それで数は20まであるんだよ。それで大富豪は、いちばん強いカードが2で……」

 カーミラが説明してくれる。

「あと、ルールは、革命、絶対王政、階級闘争、クーデター、暗殺、亡命、粛清、中間搾取、植民統治、強制労働ね」


「なんか物々しいな……。てか、僕、それわかんないんだけど」


「やりながら私が教える」

 と、レズビアが言ってくれる。


「そうね、罰ゲームは何にしましょうか?」


「一枚ずつ着ているものを脱ぐっていうのはどうだ?」


「いいわ。身ぐるみ剥いでやるわ」


「ちょっと待って。僕がいちばん不利だよね?」


「別にいいじゃないの。淫魔族なんだし」


「よくねーよ」


「じゃあ、始めようか」

 と、カーミラが宣言する。


「マジでそれで始めちゃうの!?」


 数ゲーム後――


「ううっ、だから不利だって言ったじゃん……何なんだよ、階級闘争って」

 僕は下着姿になっていた。


「さ、さすがにリリスがかわいそうだ」


「そ、そうね。次からはリリスが脱ぐのは免除にしましょ」


「リリスちゃん、ごめんね」


「いいよいいよ、これからは三体のうちの誰かが脱ぐんでしょ? めっちゃ視姦してやるから。それにもうこのゲームに慣れてきたからね。覚悟しとけよ」


 そのとき、こんこんとドアが叩かれ、オキュラとテレーズが入ってきた。


「オキュラちゃん、テレちゃん、待ってたよ。座って座って」

 と、カーミラがふたりを部屋に入れる。


「これ、座れないわよね……それに、部屋すごく散らかってるわね……。あと、リリスさん、何で脱いでるの?」


「リリスは脱ぎたがりだからな」


「違うからね」


「ああ、私はどうして1分の1のスケールなのでしょう。小さな人形だったら、みなさんのお邪魔にならずに済んだのに……。ああ、せめて私の手足を外してください……」


「テレちゃん、大丈夫だって。二階席もあるし」

 カーミラは二段ベッドの上を指す。


「ああ、そんな特等席なんて、私には分不相応です。私はゴミ箱の中でも……」


「テレーズ、いいかげんに入りましょ?」

 オキュラが呆れた様子で言う。

 

 そして、ようやっとオキュラとテレーズが二段ベッドの上に座る。


「じゃあ、今度はみんなで古今東西ゲームやろう!」


 えっと、大富豪は……?


 

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