第41話 ダンスの練習
その日の放課後、僕とレズビアとカーミラとスウィングで二日後の舞踏会のために、校庭の隅でダンスの練習をすることにした。
ダンスって、趣味でやってるひととか、クラブとかよく行ってるパリピとかでもないかぎり、そうやる機会ってないよね。
……そういや思い出したけど、中学生のころオタク友達が欲しくて、自分の部屋でひとりでオタ芸の練習してたことがあったな。結局、誰にも見せることなく、僕の黒歴史として封印したけれど。
「舞踏会にふさわしいダンスとは、どういうものかわからないな」
と、レズビアが言う。
「子供の頃は出てたんじゃないの?」
「まあ、壁の花というやつだな」
「私が知ってるわ」
「リリス、何か踊ってみせろ」
「んな、むちゃ振りな」
「って、私のこと無視しないでよ!」
「じゃあ、これとかどうかな」
と、言って、僕は腰をかがめる。
腰をかがめた状態で、両手を右、左、右、左とリズミカルにすばやく動かす。
そして、両腕をぐるりと一回転。
「り、リリス……それは何だ……?」
「えっと、オタ芸ってやつ」
「リリスにしては、動きが俊敏すぎて、気持ち悪いぞ。ていうか、そんなすばやく動けるんだな……」
「まあね」
「リリスちゃん、あたしもやる~」
カーミラがそう言って、僕のほうに来る。
「おい、カーミラ、そんなキモいやつに加わるな」
レズビアはカーミラの襟首をつかんで無理やり制止する。
「リリス、ふざけてるのか?」
「まあ、ちょっとふざけてみた。へてっ」
「その腹パンしたくなるような顔はやめろ」
「けど、もっと知ってるから。『マルマルモリモリ』とか『恋ダンス』とか」
「それが何かわからないが、舞踏会にふさわしくないやつだとは、推測できる」
「だ、大丈夫だって。『Shall we ダンス?』見たことあるから。最初の十分だけだけど」
「はぁ……この淫魔、まったくあてにならないな」
「だーかーら! 私が知ってるって言ってんじゃないの!」
スウィングが足を踏み鳴らす。
どんっ、と地面が揺れる。
「どんな踊りを知っているというのだ? 求愛行動か?」
「私はれっきとした魔族よ。動物扱いしないでくれるかしら?」
スウィングが口をとがらせて言う。
「リリス、私のところに来なさい」
「え? 僕?」
とりあえず、僕はスウィングの近くに行く。
スウィングは僕の両手をつかむ。
「む、胸が当たりそうね……」
「気を付ける」
「舞踏会にはビッグバンドが来るわ。フォックストロットってやつを教えるわ。私の動きに合わせて。はい! いち、に、さん、し……にー、に、さん、し」
スウィングが右足を横に出す。それに合わせて、僕は左足を出す。
そうやって彼女の動きに合わせていく。
「いち、に、さん、し……にー、に、さん、し」
「そうよ、そういう感じ。いち、に、さん、し……にー、に、さん、し」
「いち、に、さん、し……にー、に、さん、し、ごー、ろく、なな、はち、きゅう、じゅう、じゅういち……」
「ちょっと、数えすぎよ!」
「ごめん、ちょっとくせで」
「なかなかやっかいな子ね……」
スウィングが嘆息する。
そういえば、高校のときの体育の授業、男子は柔道で、女子はダンスっていうのがあったな。僕もダンスがよかったんだけど。ダンスが好きだったからとかじゃなくて、ただ単に柔道って痛いから。
体育の先生が、ちゃんと受け身を取れば痛くないからとか言ってたけど、多少は痛いじゃん。畳にばーんって腕やると、腕痛いよね?
柔道のこと考えてたら、足が柔道っぽくなってきた。大外刈りかけられそう。
……あ、やべっ。足が絡まってきた。
「ちょ、あんたなにやってんのよ!」
「わわわっ!」
僕とレズビアの足が絡まって、転倒する。
どてっと仰向けに倒れる。
僕の上には、スウィングが覆いかぶさっている。
僕は仰向けになりながら、顔を赤らめ、
「す、スウィングがその気なら、僕は受け入れるよ……」
スウィングは慌てて飛びのき、
「なに誤解与えるようなこと言ってんのよ!」
と、顔を真っ赤にして言う。
「てか、あんたどんだけどんくさいのよ。さっきあんなに俊敏な動きしてたのに」
「おい、何いちゃついてるんだ。真面目にやれ」
と、レズビアが呆れたように言う。
「いちゃついてないわよ! レズビアとカーミラも見てないで練習しなさいよ」
「じゃあ、あたしのとっておきのやついくね」
カーミラはそう言うと、謎の踊りを踊り始めた。
「われ~ら~ やみ~ の~ けんぞく~ ちぬ~られ~た~ われ~ら~ の~ らい~れき~」
「何だ、その踊りと歌……」
「これは吸血魔族に伝わる、伝統の踊りだよっ」
「はぁ……」
スウィングは長大息をつきながら、やれやれといったように頭に手を当てた。
「そこの青いのは?」
「青いのとか言うな、この爬虫類」
と、レズビアが言う。
「まあ、よかろう。私の踊りを見せてやろう」
レズビアは太極拳と盆踊りとランバダを組み合わせたようなよくわからない踊りを踊る。
その踊りを見てると……。
「な、何だか力が抜けてくるわ……」
「あたしも……」
「僕も起き上がる気力ない」
「てか、あんたいつまで寝っ転がったままなのよ」
「これは周囲の者の魔力を弱める踊りだ。ふはは、参ったか」
参らせてどうすんだよ……。
※ ※ ※
その夜、僕はまた夢を見た。
…………
………
……
…
暮れなずむ海岸沿いの公園のベンチに、僕と瀬崎くんが座っている。
瀬崎くんは右手で頭をかいて、
「俺はこんなことは嫌だったんだ。何もしなきゃあよかったんだ」
と、言った。
「瀬崎くんは優しいから」
彼はクラスメイトの女子を守ろうとして、中学生の男子を殴ったのだ。
なんでもその女子と中学生の男子は付き合っていて、ささいなことで口論になったらしい。
瀬崎くんはたまたまそこを通りかかって、中学生の男子が女子を殴るところを目撃したらしい。
そこで助けに入ったということだった。
瀬崎くんは特に何かの処分を受けたということではなかったけれど、それ以来、学校では浮いてしまった。
今考えると、中学校に上がるとき、遠くに引っ越してしまったのは、それも原因のうちのひとつだったのかもしれない。
……
…
「たかしへ。冷蔵庫に夕食のカレーが入ってます。母より」
帰りが遅くなって、夕飯を食べてくるっていうこと、伝えてなかったんだった。
おなかいっぱいで食べられないな。
母さん、ごめん。
母さんのカレー……。
……
…
「そういえば、父さん、どうして僕の名前って、ひらがななの?」
学校で選挙ポスターみたいな名前って言われて、あだ名が「選挙」になっちゃったし。さらに生徒会長にも立候補されそうになったし。
「ああ、名前書くときに、書きやすいと思ってな」
「ええ……」
…………
………
……
…
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