第40話 野球
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「うまくいかないか……」
魔族の少年がつぶやいた。
どことなくレズビアの兄のベリトさんに似ている。
ロリベリト? いや、男の子はロリとは言わないな。
ここはどうやらレズビアの隣の部屋の実験室のようだった。
僕は物陰に隠れて、ベリト少年を見ている。
ふと、ドアを開けて、誰かが入ってきた。
悪魔族の少女だった。が、レズビアとは少し雰囲気が違う。
「アネリア、起きてたのか」
と、ベリト少年は言う。
たしかに、少女はアネリアさんに似ている。ロリアネリアだな。
「ベリトこそ、こんな遅くまで」
と、ロリアネリアが言う。
「あなたには、たぶん無理ね。ペロンチョ界に行くなんて」
ペロンチョ界に行く……?
「そんなことない」
「いいえ。明後日には、私の部屋と、この実験室をレズビアに渡すわ。あの子、ひとり部屋が欲しいって言ってたし、それに魔術の才能もある」
「俺にはないってのかよ」
「そうじゃないわ。あの子の才能は特別だって言っているのよ。私より、ベリトよりずっとね。レズビアの魔術の組み方がとても完成されているわ。この部屋で色々と試させてあげたいの。いずれ、魔界を救うような魔術も完成させるかもしれない」
「魔界を救う、か……」
ベリト少年はつぶやいた。
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……
…
ん? なんかお股がむずむずする。
あ……何この感じ……。
あ……ああ…………。
目を開けると、レズビアが僕の両脚を抱えていた。そして、彼女の右足が僕の股を攻撃している。いわゆる電気あんまってやつ。
って――
「ぎゃああああああああ! な、何やってんの!?」
「昨日は早く起きたと思ったら、次の日にはもうこれか」
「ごめん、ごめんて」
レズビアは僕のことを解放した。
くそぅ……明日早く起きたら、やりかえしてやるからな。
※ ※ ※
登校三日目、午前中に体育の授業があった。
野球をやるということで、さすがにブルマだと危ないらしく、ジャージの着用が認められた。
我ら「いちご組」は「みかん組」との試合をすることになった。
で、僕は今、レフトを守っている。
ぱたぱた翼を動かして、宙に浮かびながら。
「これ、空飛んでいいなら、何でもありじゃないの? ホームランとか出ないじゃん」
と、僕は同じく隣で浮いているスウィングに言った。
しかも、外野が十人くらいいるし。僕の知ってる野球と違うんだけど。
「じゃあ、あれ、捕れるかしら?」
「ん?」
打席のほうを見ると、打者の放った打球が、ライト方向へ飛んだと思ったら、一瞬で遥かかなたへ飛んでいった。
まるで昔映画で見たレールガンみたいだ。なんか悲鳴が聞こえてきた。
「あれ、当たったら死ぬよね?」
「そうね。打球が飛んでこないことを祈るしかないわ」
「ひえっ……」
飛んできませんように、飛んできませんように。
「あと、なんかボールが悲鳴上げてなかった?」
「ああ、あのボール、生きているのよ」
「は?」
「ボールには、死んだ人間どもの魂が封じられているのよ。やつらは野球のボールとして、ずっと苦痛を味わうことになるわ」
「ひえっ……それ、残酷でしょ」
「魔族を殺した罰よ。これでも足りないくらいよ。あんた、ずいぶんと優しいのね」
「まあね」
アルビンが言っていたように、この魔界で人間の姿に戻ったら、まず間違いなく殺される。で、野球のボールにされる。くわばらくわばら。
※ ※ ※
打席が回ってきた。
最終回、同点でツーアウトランナー三塁。サヨナラのチャンス。
「リリス、絶対に打て」
と、レズビアが言う。むちゃ言うなよ。
「リリスちゃん、頑張って!」
女子たちの声援が聞こえる。
でも、僕、自信ないよ。ほら、バッターボックスからおっぱいはみ出てるし。
相手ピッチャーは、腕が六本あった。リアル千手観音投法じゃん。
で、ピッチャーが真ん中の腕で投げてきた。
「ぎゃあああああああああああああ! 打たないでええええ!」
顔のついたボールが泣きながら僕のほうに飛んできた。
打つのちょっとかわいそうだな。
「ストライク!」
球審をしている先生が言う。
「リリス、何をしているのだ。ど真ん中だったろ」
レズビアが怒鳴ってくる。
そう言われてもですね。
次にピッチャーはいちばん下の手で、アンダースローで投げてきた。
また悲鳴が聞こえる。ボールの泣き顔も見える。
え?
ボールは浮き上がりながら、僕の身体のほうに近づいてくる。うん、おっぱいに当たりそうな感じ。
瀬崎くんが言ってたけど、これってどうなるのかな。
考える余地もなく、ボールは僕のおっぱいにぱふっと当たって、上のほうに跳ねた。いてて。
その瞬間、僕は見た。
ボールがとても嬉しそうな、恍惚の表情を浮かべているのを。
なんかむかつく。
僕は上のほうに跳ねたボールをバットで思いっきりぶっ叩いた。
「ぎゃあああああああああああ!」
ボールは悲鳴を上げながら、センター前に飛んでいった。
三塁ランナーがホームに走ってくる。サヨナラ勝ちだ。
「リリス、早く走れ!」
僕は一塁に向かって走る。
けど、おっぱいがばゆんばゆん揺れてうまく走れない。
センターを守っている生徒は、僕の足がくそ遅いのを見て、本塁ではなくて、一塁に投げる。
まさか、センターゴロになる?
僕は必死で走る。おっぱいが揺れすぎてあごに当たる。
ちょっとこれ間に合わないかも。
僕は地面を蹴って、一塁にヘッドスライディングする。
どてっ。
ヘッドスライディングというより、ただ地面に倒れこんだだけみたいな感じだったけど。
土煙が舞う。アウト? セーフ?
一塁を見ていた副教師が宣言する。
「タイミング的にはアウトっぽいし、それにそもそも一塁ベースに手が届いてないけど、これアウトにしたらなんかかわいそうだし、延長戦とかやる時間もないからセーフ!」
「リリスちゃん!」
いちご組の女子の面々が僕に駆け寄ってくる。
そして、僕は胴上げされた。
まるで優勝したかのようだ。
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