第37話 ピクニック
教室の前まで来ると、カーミラが僕の両肩に両手を置いて、
「リリスちゃん、おはおは~」
と、挨拶してきた。
「カーミラ、おはおは~」
「レズビィちゃんもおはおは~」
「おは……よう」
「ねえねえ、今日のお昼はみんなで森の中で食べよう? ピクニックってやつ」
そういえば、ピクニックってやったことないな。僕は「どう?」といった感じでレズビアを見る。
「まあ、いいが」
「じゃあ、決まりだね。あとはスーちゃんと、テレちゃんと、オキュラちゃんにも伝えてくる」
カーミラはそう言うと、ぴょんぴょんスキップしながら、教室に入っていった。
「舞踏会の話、カーミラとスウィングにも言わないとね。時間ないし」
「本気であのふたりを連れていく気か?」
「もしかして、連れていかない気だったの!?」
「三体のお守りをするのは面倒だ」
「少なくとも、僕は手のかかる子じゃないからね」
「自覚ないのか?」
と、レズビアが言う。
「まあ、しかたないな」
「じゃあ、みんなで行くの? やった」
「リリス、嬉しそうだな。そんなにエッチいドレスを着たいのか?」
「やっぱりエッチいやつ着させようとしてるんだ」
「それは当然だ」
「えー」
※ ※ ※
昼休み、まずはみんなでサンドウィッチなどを購入しに売店に行く。
「リリスちゃんは当然これだよね」
カーミラが手に取ったのは、触手のサンドイッチ。
「う、うん……」
やっぱりそれかー。
※ ※ ※
森といっても、風光明媚ところでもなんでもなくて、黒っぽい葉をつけている木々が鬱蒼と茂っていて、空は赤で、雲は黄色だ。おまけによくわかんない動物の絹を裂くような鳴き声が聞こえてくる。
まるで魔界じゃないか。
……あ、ここ魔界だった。
ちょっと開けた場所に椅子とテーブルが置いてあった。
みんなでそこに座って食べる。
「今日はいい天気だし、すっごく気持ちいいね」
いい天気、なのかな? あと、この景色、ちょっと気が滅入る。
「そういえば、もうすぐお城で舞踏会があるわね」
と、オキュラがレズビアに言う。
「あんた、いつも出てないけど」
と、スウィングがレズビアに言う。
「さして興味ないからな」
「スウィングはいつも出てるの?」
僕は触手サンドを食べながら言う。
そういえば、過去はお金持ちだったって言ってたな。
「毎年出ていたけれど、今年は出られないわ。招待状が来なかったのよ。ちょっとうちの財産が減ったからって、薄情なものよね、まったく」
「ちょっとどころじゃないだろ」
と、レズビアが言う。
「スウィング、出たいか? 王族は三体まで魔族を招待できるのだ」
「本当に?」
「ああ」
「やったわ。これで社交界に返り咲きね」
「出たいか、と聞いただけで。連れていくとは言ってないぞ」
「きーっ!!! 何よ、性格悪いわね」
「オキュラとテレーズはどうだ?」
「私は塾に行かないといけないから」
と、オキュラが言う。魔界にも塾ってあるんだ。
「わ、わたしはただの人形ですし……。こんな無機物の木偶の坊が舞踏会なんて出過ぎた真似です。ああ、暖炉の燃料くらいならお役に立てますけれど……」
「テレーズ、今の時期は暖炉は使わないぞ」
「そういう問題!?」
「しかたないな」
レズビアはやれやれといったふうに言う。
「リリスとカーミラとスウィングを連れていくか」
「いいの? レズビィちゃん? あたし、そういうとこ似合わない気がするけど」
「そんなことはない」
「い、いちおうは感謝しておくわ。ありがとう」
と、スウィングが言う。
「連れてってやらんぞ」
「わかったわよ。ありがとうございます。レズビア様」
「トカゲにしては上出来じゃないか」
「舞踏会でトップをとってやるから、覚えてなさいよ」
舞踏会のトップって何だろう。
僕は触手サンドをもぐもぐ食べる。
そのとき、後ろから気配がした。
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