第38話 触手
後ろを振り向くと――
触手モンスターがいた。
五メートルくらいの巨大なナマコみたいな青い体に無数の触手が生えている。体の真ん中には星型に並んだ五つの目がある。
な、なんすかこれ……。
びゅっと触手が僕のおなかに巻きついてきた。
うぐっ、さっき食べた触手を吐き出しそう。
ん? 触手?
そうだ。僕は触手のサンドウィッチを食べていた。
まさか、復讐に……!?
ご、ごめんなさい。許して!
触手モンスターは僕の身体を椅子から引っぺがし、自らの体のほうに寄せた。
触手の先端から垂れている謎の白い液体が僕の身体にどぼどぼとかかる。
うへぇ、生臭いし、べとべとしてる……。
僕の身体がぐっと持ち上げられた。それとともに、モンスターは、僕のおなかに巻きつけている触手をさらに締めつけてくる。
ううう……く、苦しい。
出ちゃう……出ちゃうよ、内臓出ちゃう!
さらに触手は僕のおっぱいにも巻きついてくる。
痛い……痛いよ……。
抵抗しようとしても、両手両脚にも触手が巻きついてくる。
気持ち悪い、痛い、苦しい……助けて……。
「何でこんなところに触手モンスターが!?」
オキュラが驚いたように言う。
「オキュラ……助けて……」
「私の能力は知的生物にしか通じないわ……だから、私は神に祈るわ」
そう言うと、オキュラはひざまずいて、祈りを捧げはじめる。
祈んなくていいから助けて。
「ああ、リリスさん、私のような人の形を模しただけのただのシリコーンこそ犠牲になるべきなのに。私が身代わりになります!」
テレーズがそう言って、触手モンスターに近づく。
が、ぱーんと触手に身体を弾かれて、地面に転がる。
「テレーズ!」
「ああ、私はどこまでいっても役立たず……」
その間に、触手は僕のお股を狙って、太ももを這いあがってくる。
ううう……だめぇ……。
「ああ、早くしないとリリスさんが苗床にされてしまうわ」
と、オキュラが言う。
な、苗床……!?
そんなものにされてたまるか。
「今私が助けてあげるわ。こんな雑魚、私にかかれば一瞬で灰燼と化すわ」
と、スウィングがドヤ顔で言う。
とぅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。
謎の効果音とともに、彼女の口の周りに、淡い黄色の光が集まってくる。そして、それは渦をなし、徐々にその渦の回転数が上がっていく。
な、何が始まるんです?
「おい、バカ、何やってんだ!」
レズビアがスウィングの胸をばんっと両手で突いた。
スウィングは地面に仰向けに倒れる。
その瞬間――
ぴいぃ……ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
ものすごくぶっとい光線が空に向かって発射された。雲が割れた。
ひっ、ひえぇ……。
あんなもん食らったらお陀仏でしょ。
「おい、リリスごと殺す気か!」
レズビアが怒鳴る。
「加減したじゃないの」
「どこがだ!」
その間に、おじゃましまーすって感じで、触手がスカートをぺろりとめくりあげる。
ひいぃぃ! 早く、早く助けて!
「リリスちゃん、待っててね。今助けるから」
カーミラがその辺に落ちてた木の棒を拾う。
「お前の体液なんて、まずいだろうけど全部吸ってやる! とりゃあ!」
「カーミラ、よせ。お前には無理だ」
レズビアがカーミラを制止する。
「リリス、もう少しだけこらえてくれ」
レズビアはポケットからでっかいフォークみたいなやつを取り出し、巨大化させた。
そして、切っ先を地面に向け、大きく跳躍した。
おお、すごいジャンプ力。
レズビアは上から触手モンスターの脳天にでっかいフォークみたいなやつを突き刺そうとする。
少しでもずれたら僕が串刺しにされるよね……!?
「リリス、頭を下げろ!」
ひいぃぃぃ! 僕は彼女の言うとおり、頭を下げ、目をぎゅっとつむる。
ぐしゃあああああああああああああ。
僕のすぐ背後で、不快な音がした。
すると、僕を締めつけていたいましめがするりと解かれた。
僕の身体はそのまま地面にぼとりと落とされ、仰向けに倒れる。
「はぁ……はぁ……」
大きく息をする。どうにか助かったようだ。
みんなが僕のところに集まってくる。
レズビアが僕の身体を抱きおこし、
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない」
と、僕は言った。魔界ってこんな危険なところだったの? もう早く帰りたい。でも、レズビアは僕のことをちゃんと助けてくれた。
「でも、どうにか助かったみたい。レズビア、ありがとう」
「シャワー室で、この不愉快な体液を洗い流そう」
と、レズビアが言った。
「カーミラ、教室に行って、リリスと私の体操着をとってきてくれ」
「あいあいさ」
カーミラが走って、その場を去る。
「触手モンスターの生息域はずっと南のはず。どうしてこんなところにいるのかしら」
と、オキュラが言う。
「まさか、僕に食われた仲間の復讐のために来たとか……?」
「ありえないな」
と、レズビアが言う。
「ところで、あのトカゲは何やってんだ」
スウィングは触手モンスターの死骸から、触手を引きちぎって、袋に詰めていた。
「この食材を売れば、ちょっとした稼ぎになるわ」
「お前、堕ちるとこまで堕ちたな……」
レズビアが呆れたように言った。
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