第34話 森の中で

「私たちはこれからアルビンと大事な話がある」

 と、レズビアが、カーミラとスウィングに言った。


「やっぱり痴話げんかなのね? そうなのね? ね? ね?」

 スウィングが興味津々といった様子で言う。


「おい、スベスベマンジュウガニ、まったく違うからな」


「誰がスベスベマンジュウガニよ! もはや脊椎動物ですらないじゃない!」


「端的に言うと、このゲスの極みウサギが、リリスを茂みに連れ込み、胸を無理やり触ったのだ」


「だからちげーーーーーって!」


「うわっ、アルビン、そんなやつだったの……?」

 スウィングが軽蔑の視線を送る。


「アルビンくん……」

 カーミラが悲しげな表情をする。


「この落とし前をつけなければならないからな」


「そだね」


「俺は無実だ! おい、信じてくれ!!!」


 僕とレズビアはアルビンのことを抱えて、連行した。



   ※   ※   ※



「さて、ここなら誰もいないだろう」

 

 僕らは学園内にある森の中にきた。


 アルビンは、ウサギの耳をぴんと立て、

「ああ、周りには誰もいねぇ」


「まず、このことは他言無用だ。リリスが『伝説の勇者』だと知れれば、リリスのことを殺しにかかる魔族もいるかもしれない」


「もちろん誰にも言わねぇ」


「アルビンはたしか寮に住んでいるのだったな」


「まあ、そうだが」


「今日から魔王城に来い」


「な、何でだよ」


「寮の連中に、ふとしたはずみで言うかもしれない。魔王城に来れば、リスクが減る」


「だから誰にも言わねーって」


「ちょうど私の隣の部屋が空いている。とにかく来い。子供の頃のように下僕にしてやる」


「誰がお前の下僕になんかなるか。それに、今日って、無理に決まってんだろ」


「えっと、アルビンが隣に部屋に……」

 ちょっと大丈夫かな。貞操の危機を感じるんだけど。


「リリス、大丈夫だ。もう指一本触れさせやしない」


「そいつ男なんだろ。俺はそんな趣味ねーから。気持ちわりーだろ」


「どうだかな。この童顔と怯えたような表情、それにこの乳揺れを見て何も思わない男がいるとは思えないがな」

 レズビアは僕の下乳を持ち上げて、ゆっさゆっさと揺する。


 おい、やめろ。


 アルビンは顔を赤くして、僕から目をそらす。


「とにかく、今から荷物をまとめて魔王城に来い。それとだ、リリスに謝れ」


「何でだよ」


「お前はリリスのことを茂みに連れ込み、口を押さえて、胸をまさぐった」


「まさぐっちゃいねーよ」


「リリスがどれだけ、恐怖を味わったと思う?」


「たしかに悪かったけどさ」


「言い訳はいらない」


「わかったよ。悪かった。すまない」


「どうだ、リリス?」


「うん、もういいよ。僕もちょっと大げさだった」


「リリスの優しさに感謝するんだな」


「わかったよ。魔王城に行きゃーいんだろ」


 僕はふと考え付いたことを言う。

「アルビン、子供の頃、レズビアのあとをつけたのって、もしかして、リリアのことが気になってたから?」


「べ、別にそんなんじゃねーよ」


「図星だな」


「うん、図星だね」


「キモいストーカーだ」


「うん、キモいストーカーだね」


「ちっ……」

 アルビンは否定せず、悔しげな表情をする。


「レズビア、リリアの消息ってわからないの?」

 と、僕は聞く。


「ああ」

 レズビアは悲しそうな表情で首を横に振る。

「いろいろ探し回ったのだがな」


「やっぱり僕をこの姿にしたのって、リリアの面影を求めてたからなんだよね」


「私も済まないと思ってる。どうせ変身させるのなら、私がいちばん好きだった、もう会えない、リリアを……」

 レズビアが涙を流す。


 僕はレズビアを抱きとめる。

「ごめん、僕はリリアとは全然違うから、彼女の代わりになんてなれない」


「その必要はない。リリスはリリスだ。リリアはリリスのようなドジではない」


「僕もドジではないのですが」


「あの……俺、引越しの準備するから、行ってもいいか?」


「とっとと立ち去れ」


「ちっ、わかったよ」

 アルビンは僕らに背を向けて、歩きはじめる。が、少ししたところで僕らを振り返り、

「お前ら、キモい関係だな」


「やっぱりお前をぶち殺す」


「おお、こええ」

 アルビンはさっと逃げ出した。


 僕とレズビアはそのまま森の中で抱き合う。


「ねえ、レズビア、もう僕の乳つねったり、尻尾引っ張ってきたり、角削ってきたりしない?」


「それは無理だな」


「えー」


 感動シーンっぽかったのに、一気にさめた。

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