第32話 ラブレター
洗濯物を干しに行った帰りに、レズビアのお兄さんのベリトさんとまた遭遇した。
普段、朝この辺散歩してるのかな?
ベリトさんは頭に包帯を巻いていた。
「どうしたんですか。その包帯は?」
と、僕は聞いた。
「これかい? ちょっと転んで、角を折ってしまってね。根元からばきっとね」
「痛そうですね……」
「まあ、また生えてくるとはいっても、しばらくはかかるだろうね。ただ、もう別に生えてこなくてもいいんだけどね」
「どうしてですか?」
「角なんて邪魔じゃないか。リリスちゃんはそう思わないかい?」
「たしかにちょっと邪魔に思うときもありますけど、でも、角があったほうがかっこいいです」
「そうかな」
「そうですよ。角とドリルは男のロマンです」
「ええと、リリスちゃんは女の子だよね?」
「え? まあ、そうですけど。男の子が考えるようなロマンってことです」
「ロマンにしてはほとんどの魔族には角が生えているけれど……」
「えっとですね。とにかく、ベリトさんは角が生えていたほうがかっこいいってことです」
流れで男のことかっこいいとか言ってしまった。これもビッチな言動かな?
「ありがとう、リリスちゃん。リリスちゃんは、自分が魔族だってこと、どう思ってる? 淫魔族のこと、差別してくるやからもいるみたいだし」
「つらいことも多いけど、クラスメイトはけっこう優しくしてくれます。だから、別にどうとも思ってないです」
さすがに僕は元々は人間で、今の魔族の身体を捨てて元に戻りたいです、なんてことは言えないので、ちょっとした嘘をつく。
「異界の人間の言葉にこんなものがある。『神よ、変えることができるものに挑むための勇気を、また、変えることができないものを受け入れるための落ち着きを、そして、変えられるものと変えられないものを見分けられる賢さを、私に与えてください』」
「いい言葉ですね」
僕の今の状況、変えることができるものなのか、それとも変えることができないものなのか。でも、変えるためにチャレンジするしかない。
「そうそう、僕のところのメイドになるって話は、どうかな」
「ごめんなさい。お断りします」
「そうか。レズビアはいいメイドさんを雇ったみたいだ」
「いえいえ、僕はまだまだ駄メイドです。それじゃあ、失礼いたします」
僕はそう言って、ベリトさんのところから立ち去り、レズビアの部屋に戻った。
※ ※ ※
そして、登校二日目。
昨日と同じようにレズビアについて魔界学園のいちご組の教室に入る。
机の中を見ると、何やらいっぱい手紙が入っていた。机の上に広げて、それらを見てみる。
その内容は――
「一目ぼれしました」「僕と付き合ってください」「大事な話がある。今日の放課後体育館裏で待っている」「結婚してください」「一発やらせてください」「将来に向かって歩くことは僕にはできません」「この手紙と同じ内容を10日以内に5人に送らないと不幸になります」「ご不要になった家電を買い取ります」
ひえっ、なんすかこれ……。
レズビアはその手紙群をびりーびりーびりーと破いていった。
「いきなり破んなくても」
「もしかして、この中に興味あるのがあったのか?」
「ひとつもないけどさ、でも断るならちゃんと断ったほうがいいし」
「こんなのにいちいち付き合ってたら、きりがないぞ」
「そうかもしれないけどさ」
ラブレターを書いた男子の気持ちを思うと、ちょっと申し訳ない気持ちになる。
「ずいぶんとモテるみてーだな。さすがは淫魔族だ」
と、隣にいるアルビンが言ってくる。
「男子にモテたくなんてないんだけど」
「そうなのか?」
アルビンが意外だといった感じで言う。しかし、すぐにかぶりを振って、
「まあ、そうかもしれねーな」
「もしかして、この中にアルビンのやつもあったのか。それはすまないことをしたな」
と、レズビアが言う。
「ちげーよ。んなわけねーだろ」
※ ※ ※
午後の数学の授業のときだ。
尻尾がなんかむずむずしてきた。
え? 誰かに触られている? 尻尾フェチ?
隣にはアルビンしかいないけど……まさか。
ん? 何か尻尾に結びつけられている感じがする。
僕は尻尾をひょいっと手元に持ってくる。
そこには紙片が結び付けられていた。
僕はそれをほどいて、開いてみた。
――大事な話がある。今日の放課後体育館裏で待っている。
え? じゃあ、朝のあの手紙、マジでアルビンのだったの?
てか、普通に渡せや。
まあ、レズビアに容赦なく破り捨てられて、かわいそうだったね。
僕の答えは、はなっから決まっているけどさ。ちゃんと断ってあげるのが義理だよね。若干ムカつくやつだけどね。
あ、そうそう、僕もアルビンに用があるんだった。元の世界・元の姿に戻るための方策を聞くっていうやつ。
あー、でも交換条件とか持ちかけられてきたら厄介だな。
※ ※ ※
放課後。
アルビンは先に教室から出て言った。
どうにか僕はレズビアから離れないといけない。
「ちょっとトイレ」
と、言って、僕はレズビアから離れた。
ちなみに、トイレ行きたかったのはほんと。
そして、トイレで用を足すと体育館の裏を目指す。
果たしてそこにはアルビンが待っていた。
僕はアルビンと対峙する。
「何?」
「お前、本当に淫魔族か?」
と、アルビンが僕の目を、鋭い目つき見て言った。
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