第31話 ロリレズビア
その後、僕とレズビアは、カーミラとスウィングとわかれた。そして、魔王城へ帰る。
そして、入浴してさっぱりしたあと、
「私は隣の部屋で魔術の研究をしている。リリスは先に寝てていいぞ。もちろん私のベッドでだ」
「えっと、これからもずっとレズビアのベッドで寝ていいってこと?」
「ああ。やっぱりリリスを抱き枕代わりにしてねるほうが気持ちいいからな」
「やっぱ僕抱き枕なんだ」
でも、例のかったいベッドで寝るよりはずっとマシだ。
「寝るのがまだ早いというのなら、適当に好きにやってていい」
「そんなこと言われても、特に楽しむようなものとかないし」
僕はレズビアの部屋を見渡す。
ゲームもないし、漫画もないし、パソコンもない。
何すればいいんですかね。「びっくりするほどユートピア!」とかやればいいんですか。やらねーよ。
「そうだな」
レズビアは、いったん実験室に入って、何かを持ってきた。
日本の写真週刊誌だった。
「前にペロンチョ界から召喚したやつだ。まあ、暇つぶしにはなるだろう」
「物を召喚するっていうのかな」
僕はそれを受け取る。
「これ、5年前のやつなんだけど」
「そうなのか? 最新のをピンポイントでというわけにはなかなかいかないからな。もっとうまくいくようにいろいろ試行錯誤はしてるのだがな」
「えっと、僕が元の世界に戻っても、魔界は大丈夫とかそういう研究とかはしてくれない……よね?」
「まだそんなことを言っているのか」
「だってさ」
「まあ、リリスが楽しめるように、いろいろと善処はする」
「うん」
僕は「ありがとう」とは言えなかった。
だって、勝手にひとを誘拐して、欲しいものは全部与えてやるから満足しろみたいに言われても、感謝なんてできないじゃないか。
「私も済まないとは思っているさ」
と、言うと、レズビアは実験室に再び入っていった。
僕はベッドに腰掛けて、その写真週刊誌を読み始める。
そういえばあの芸能人不倫してたよなーとか、政治家の汚職事件とかあったなーとか、ちょっと前の記憶がよみがえる。5年前の話だし、別にだからってどうしたことはないんだけど。
読んでいるうちに眠くなってきてしまった。今日も疲れたからね。
週刊誌を枕元にぽんっと放り出し、ベッドに横になると、すぐに意識がうすくなっていった。
……………
…………
………
……
…
近くには大きな煙突があった。魔王城の銭湯にあるやつだ。
どうやらここは銭湯の裏手らしい。黒っぽい雑草が繁茂していて、建材のようなものが放置されている。
空には星がまたたいていて、二つの月が輝いていた。
ふと、誰かがやってきた。
僕はとっさに建物の影に隠れる。
白のワンピースを着た小さな女の子だった。小学校低~中学年くらいに見える。
ピンク色のロングヘア、頭には渦を巻いた角、背中には翼、そして、先端がハートマーク状になった尻尾。
え? リリス……の幼いときの姿?
いや、この僕の今の身体はレズビアが作りあげたものだ。幼いときの姿なんてあるはずがない。
しばらくして緑色のパジャマを着た一人少女がやってきた。
青い肌をしていて、頭には黒い角が生えている。
顔立ちはレズビアにそっくりだった。
もしかして、子供のときのレズビア? ロリレズビア? かわいいじゃん。
――いや、僕はロリコンではありませんからね。断じて。
「待った?」
ロリレズビアがロリリリスに言う。
「ううん」
「これ、持ってきたんだ。かわいいでしょ?」
ロリレズビアがお花で作った冠を取り出した。
そして、ロリリリスの頭に載せる。
「ありがとう」
それからふたりは並んで座って、星空を見上げた。
何かを話しているみたいだけど、小さな声だったので、よく聞こえなかった。
ふと、何やらごそごそと物音がした。
「誰!?」
ロリレズビアが立ち上がって、そちらのほうを向いた。
僕のほうではなかった。僕とは反対側の建物のほうだった。
…
………
…………
……………
痛っ!
痛て痛て痛て痛て痛て!
目が覚めると、尻尾を引っ張られていた。
レズビアが僕の尻尾を腕にぐるぐると巻きつけている。
「起きろ、駄メイド」
「痛いからやめて。引っ張らないで。ちぎれちゃうから」
レズビアは僕の尻尾を手から離す。
「もうちょっと普通に起こしてくれないかな」
「私もいろいろと試してみたのだがな。昨日のように乳も揉んでみたが、まったく起きなかった。もう揉まれなれてしまったのかもしれないな」
「ううっ」
そんな慣れいらないんですけど。
「あの、レズビア」
「何だ?」
「いや、何でもない」
やっぱり僕がレズビアの夢の中に入ってしまったのを言うのはやめよう。どうせ「キモい」だの言われるだろうし。
僕も他人に夢の中に入ってこられたら、「うわっ、キモっ! 人の夢の中に入ってくんなし」って思うだろうし。
でも、あの夢は何だったんだろう。レズビアの願望? 小さいときから僕と遊びたかったとか。
いや、まさかね。
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