第30話 ハンバーガー

 それから僕らはデパートの飲食店街にあるハンバーガーショップに入って、夕食をとることにした。


 カウンターにレジが並んでいて、その上に、バーガーの写真が映っている看板が掲げられている。ただ、マンドラゴラとかクラーケンとかコカトリスとかやばそうな名前が踊ってる。うーん、やっぱ魔界なんだなって。


 レズビアがレジに行って、

「クラーケンバーガーで、サイドメニューは触手のフライ、飲み物はマンティコアの精子のシェイク」


「もしかして、それって僕の? ねえ、またえんがちょなもの食べさせられるわけ?」


「どうせまた涙を流しながらうまいと言うくせに」


「そんなこと言わないからね」



   ※   ※   ※



「うまい……」

 何でうまいと感じちゃうんだ。また涙出てくる。


 ちなみに、またまた僕らはスウィングに餌を与えてやった。「哀れなトカゲだな」「誰がトカゲよ」みたいなやりとりがあったけれど、毎度のことなので割愛。


「今日はすっごく楽しかったね。もっともーっとみんなで遊ぼうね。海とか山とか谷とか川とかカラオケとかボーリングとかダーツとかナイトプールとか」

 カーミラがハンバーガーをほおばりながら、とても嬉しそうに言う。


「そ、そうだね」


「リリスちゃん、どうしたの? 何か浮かない顔してるけど」


「そんなことないよ。今日はすっごく楽しかったよ」

 と、僕は言う。嫌なこともあったけど、楽しかったこともあったのは事実だ。

 このまま魔界でレズビアとカーミラとスウィングと一緒に過ごすっていうのも、ちょっと考えてしまう。でも、そういうわけにもいかないんだ。


「リリス、そういえば、今日アルビンがずっとあんたのこと見てたわよ。もしかして、あんた好かれてんじゃないの? それともアレ? 淫魔の能力で男を落とすってやつ」


「何であんなやつにそんな能力使う必要あるんだよ。まったく興味ないんだけど」

 でも、好きな女の子に「まったく興味ない」とか言われたらめっちゃショックだよね。

 僕はそんなこと言われたことないよ。言われたのは「マジでキモい」だから。


「しかしアルビンがリリスのことをずっと見てたってことを知っているということは、スウィングもあの兎男をずっと見ていたということではないのか?」

 と、レズビアがスウィングのことを半目で見る。


「ち、違うわよ。そんなんじゃないわよ」


「あ、スーちゃん、リリスちゃんのこと見てたんでしょ」


「否が応でもその駄乳が視界に入ってくるからよ」


「誰が駄乳だ」


「レズビアこそ、アルビンと幼馴染なんでしょう?」


「幼馴染ではなく、ただ昔から知っているだけだ」


 アルビンの話題になって、ふと思い出したけど、彼って魔術の成績がこの学園でいちばんなんだよね。レズビアが僕をここに呼び出して、この姿に変身させたのも、魔術。つまり、アルビンに頼めば、元に戻れる方法を見つけ出してくれるかもしれない。

 うーん、でもあの男に頼み込むのって、何か癪だな。

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