第29話 スマホ
次に僕のスマホを買いに行ったわけだ。
ごく普通のケータイショップだった。でも、ここ魔界だよね?
「ペロンチョ界のものをいろいろと参考にしているのだ」
と、レズビアが説明してくれる。
「ふーん」
こんなに僕のいた世界と共通点があるなら、この世界で生活するのは困らなそうだ。ますますこの身体でなければ、と思うよ。
「リリスちゃん、このピンクのやつとかかわいいよ」
と、カーミラが店内に陳列されている見本を指す。
「いやぁ……ピンクはちょっと」
「それがいいな」
と、レズビアがうなずいて言う。
「僕はこのシックな黒がいいかなって」
「私がリリスに買ってやるのだからな。私の意見が優先だからな」
「ちぇっ、わかったよ」
しかたがない。ないよりはマシだ。
もろもろ契約して、店をあとにした。
僕はスマホの電源を入れる。
その画面にはアイコンが六つ並んでいた。
電話、メール、カレンダー、カメラ、電卓、時計だ。
「あれ、インターネットは?」
「そんなものあるわけないだろう」
「えー。もしかして、この六つの機能だけ?」
「そうだが」
「これ『スマート』フォンじゃないじゃん」
「スマートとは何だ? スマホは『すっごい魔術の本』の略だ」
「いやいや、何それ。てか本じゃないでしょ」
「もともとは本の形をしていて、そこには膨大な数の魔術が記述されていたのだ。それをコンパクトにして、持ち運びに便利なかたちにしたものがこれだ」
「うんうん、これができてから、すっごく便利になったんだよ。遠くのお友達とかと簡単に話せるし」
「あんた何にも知らないのね……」
「リリスはクソど田舎の生まれだからな。いまだに狩猟採集生活をしているようなところだ」
「それ田舎というより原始人じゃん」
やっぱりここは魔界、そんなうまくはいかないよね……。
そんなやりとりのあと、僕はみんなとメールアドレスを交換する。
「ねえ、レズビィちゃんも教えて」
「まあよかろう」
「あたしはあんたのなんかいらないわ」
と、スウィングがレズビアに言う。
「私もそう思っていたところだ」
「まあまあ、そう言わずにさ。ね?」
と、僕はとりなす。
「じゃあ、僕のほうからお互いのをふたりに教えるよ」
僕がこの魔界からいなくなっても、レズビアはカーミラとスウィングとうまくやっていけるようにしたい。
……って、なんで僕はこんなにレズビアのことを心配してるんだろう。
ちなみに、魔界のスマホは、魔族の手のひらからちょっとだけ魔力を吸い取って動いているということで、充電は不要ということだった。
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