第26話 マラソン

 案の定、レズビアとスウィングは喧嘩したらしく、お互いにそっぽを向いていた。


 まあ、でもふたりで陰で僕の悪口言われるよりはマシだよね。偏見かもしれないけど、女の子ってそういうところありそうじゃん?


 僕はレズビアの分のトレーを彼女に渡した。

 みんなはそれぞれ着席する。


「リリス、なんだかんだいってもそれが好きなんだな」

 レズビアは僕のカレーライスに乗っている触手を見る。


「いいよ。もうそれでいいよ」

 僕は触手を食べる。うん、おいしいよ。


 テレーズも食事をしていた。でもなんかゴムっぽいもの食べてる。人形だからそうなのかな。


 スウィングの前には何もない。やっぱりお金ないから食べられないのか。

 この触手を恵んでやろうじゃないか。


「スウィング、これあげる」

 僕はスプーンの上に触手を乗せて、彼女の前にもっていく。


「あ、あなたと間接キスになってしまうわ」

 と、スウィングは狼狽した様子で言う。


「貧乏人のくせにそういうところは気にするんだな」

「これでもちょっと前まで上流階級だったのよ」


「食べないの?」


「た、食べるわよ」

 スウィングは僕の差し出したスプーンをぱくりと口に含む。そして、触手をもぐもぐする。

「感謝するわ」


「スーちゃん、あたしのもあげる」

 カーミラはフォークに赤いゼリーのようなものを刺して、スウィングの口に突っ込む。


「カーミラ、それ何?」

 と、僕は聞く。


「なんかの血を固めたやつ」


「なんかって?」


「わかんない。リリスちゃんも食べる?」


「いや、遠慮しておくよ」


「私もスウィングさんにあげますわ」

 と、オキュラもフォークを差し出す。なんかの眼球が突き刺さってる。


「あ、私のはあげられなくて、ごめんなさい。本当にごめんなさい……」

 と、テレーズが本当に申し訳なさそうに言う。


「テレーズ、ひょっとしたら、スウィングは食べるかもしれない」


「私はゴムなんか食べないわよ!」


「ご、ごめんなさい……」


「べ、別にテレーズを責めているわけじゃないわよ……わかったわよ。食べるわよ」

 スウィングはゴムを口に入れる。

「うおぇ……」


 マジで食いやがった。


「あの……リリスさんも食べますか?」


「あ、僕は遠慮しておきます」


 ……なんか騒がしくて疲れるな。

 でも、レズビア、けっこう楽しそうじゃん?



  ※   ※   ※



 僕はブルマを手に取り、見つめる。

 これ、穿くのか。


 そう、午後の授業は体育だった。

 みんないそいそと着替えている。ちなみに男子は体育館に行って着替えているとのことだった。


「リリス、さっさと着替えろ」


「しかたないな……」


 僕は体操着に着替える。

 おっぱいはぱっつんぱっつんで、すごく大きな乳袋ができてしまっている。

 それで、下はブルマ。パンツがはみ出しそうなんだけど。


「リリスちゃん、超エロいね~。いいねいいね~」


「カーミラはエロカメラマンか」


「そうなのです。リリスちゃんの恥ずかしがってる姿撮っちゃうよ~」

 カーミラは僕のことをスマホで撮ろうとしてくる。


「ちょ、やめ……」


「何をやっているのだ。まったく……」

 レズビアは呆れたように言った。

 


   ※   ※   ※



 体育の授業はマラソンだった。

 僕のマジで嫌いな奴じゃん。


 僕らはグラウンドで準備体操をする。

 お、男のときの身体より、柔らかくなってる。


「リリスちゃん、一緒に走ろう?」

 

「カーミラ、それってフラグ?」


 ――案の定、僕はみんなに置いてかれた。

 カーミラにも、レズビアにも。


 僕はなんとか走る。けど、おっぱいがものすごい勢いでばゆんばゆん揺れる。


「あんた、それすごいわね……」

 隣で走っているスウィングが言う。

 彼女もけっこうつらそうだ。栄養足りてないのかも。


「恥ずかしいからあんまり見ないで」


「そう言われてもそんなに隣でぶるんぶるんやられてたら見るわよ」


「ううっ、僕たち羽生えてるから、飛んでいけないかな」


「それはルール違反よ。見つかったら……。前にずるした生徒は、残りの時間全部腕立て伏せをやらされてたわ」


「腕立て伏せ……」

 もっと魔族的な罰があるかと思ったけど、それくらいなら最悪……。


「たしかにちょっとだけならバレないかもしれないわ」


「僕たちのほかに誰もいないし」


「そうね」

 スウィングが僕の手を取ってきた。


「え、手つないで飛ぶの?」


「か、勘違いしないでよね。もしかしたらあんた抜け駆けするかもしれないし。さあ、飛ぶわよ」


 僕らはふたりで手をつないで飛行する。


「あ、リリスさんとスウィングさん、ずるしてまーす」

 ソッコーで見つかった。



   ※   ※   ※



 体育の先生に僕とスウィングは罰として腕立て伏せをやらされる。


 でも――


「あの、先生、僕、おっぱいが邪魔でうまく腕立て伏せができないんですけど」


「そうか、ならしょうがないな」


「僕、やんなくてもいいんですか?」


「できないものはどうしようもない」


「先生、私だけやらないといけないなんて理不尽じゃないですか!」

 と、スウィングが抗議する。


「ズルしたものに抗議する権利はないぞ。さっさとやれ」


「くっ……この駄乳、あとで覚えてなさい」


 え……それって、逆恨みだよね……。

  


 

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