第25話 食堂

  カーミラたち女子集団のところに行くと、もうすっかり囲まれてしまった。

 魔族の女の子、みんなけっこうかわいい。

 これってハーレムじゃね? 


「リリスちゃんってどこから来たの?」

 ――ええと、なんか田舎のほう。

「おっぱいすごいね」

 ――そ、そんなことないよ。

「そのおっぱい本物?」

 ――ま、まあ(本物っていっていいのかな……?)。

「頬っぺたぷにっぷにでかわいい~」

 ――ちょ、つっついてこないで。

「淫魔族ってやっばりやりまくりなの?」

 ――そ、そ、そんなわけないでしょ!


「ねえ、ケータイのアドレス教えて~」「好きな色は?」「好きな食べ物ってやっぱり触手なの?」「アイドルとか興味ある?」「メイドってどんな仕事するの?」「角触ってみていい?」「ねえねえ、リリスちゃん、血吸っていい?」「尻尾の先ハートマークになってる!」「おっぱい重くて大変だったりする?」「やっぱり男の子のこととか興味あるんだよね?」「ピンクの髪きれいだね~」「淫魔族なんてただの淫乱じゃないの」「生まれ変わったらどんな乗り物になりたい?」「好きな一級河川は?」「魔王様のお城に住んでるの?」「お友達になりましょうよ」


 僕は女の子たちにもみくちゃにされる。

 ああ、これはハーレム、男の夢……。

 変な質問されたり、おっぱい触ってこられたりする以外は完璧じゃないか。


「ねえ、あなたたち、今は授業中よ」

 僕らのところにひとりの女子生徒がやってきた。


 見ると、紫色のロングヘアをした魔族だった。制服を着ていて、眼鏡を掛けている。そして、額に第三の眼があった。ちなみに第三の眼のほうには眼鏡は掛けていない。


「転入生さん、私の名前はオキュラ・スキュデリ。三眼魔族よ。この『いちご組』でクラス委員をやっているわ」


「よ、よろしくです」


「ほら、みんな、席に戻りなさい」

 オキュラはぱんぱんとてのひらを叩いた。

 ぽつぽつと文句を言う生徒もいたけれど、基本的に従順な態度を示して、席に戻っていった。


「この第三の眼、人を従わせることができるのよ」


「それ、ヤバい能力じゃ……」

 たしかに、オキュラの三つ目の眼を見ていると、なんだかぼおっとするような変な感じになってくる。


 私はあなたの奴隷……何でもあなたの言うことに従い……

 

 ……

 …

 

 あ、ヤバいヤバい。僕は慌てて視線を外す。


「いろいろ制限はあるけれど。ただ、今ではもうこの能力を使わなくても、みんな素直に従ってくれるようになったわ。困ったことがあったら私に相談してくれればいいわ」

 と、オキュラは僕に微笑みかける。


「ありがとう」

 ヤバい能力だけど、彼女は悪い魔族じゃなさそうだし、大丈夫……だよね?



   ※   ※   ※



 その後の授業はつつがなく終わった。授業中暇だったから、ノートに鉛筆で立体図形なんか書いたりしてた。

 イラストでも書こうかなって思ったけど、隣のアルビンがちらちら見てくるのでやめた。うん、見てくんなよ。


 でも、僕も隣にこんなおっぱい大きい美少女が座ってたら、気が気じゃないと思うけど。


 そんなこんなで予鈴が鳴って昼休みになった。

 生徒たちは三々五々散ってゆく。


「食堂に行こう」

 と、レズビアが言う。


 カーミラ、スウィング、オキュラ、あとほかにひとりの女子も僕とレズビアのところに来た。


「カーミラたちはまだいいが、なぜお前までいるんだ」

 と、レズビアがスウィングを指して言う。


「いちゃ悪いかしら」


「どうせ私にたかろうとしているんだろう」


「ち、違うわよ。カーミラたちがリリスと一緒にお昼食べに行こうって言ったのよ。むしろあなたのほうこそお呼びじゃないわ。いつもひとりで食べているじゃないの」


「ひとりだから何だというのだ。それに今日はリリスとふたりだ」

 レズビアは僕の腕を取って、自らのほうに引き寄せる。


 僕は困惑する。それで、とりなすように、

「えっと、レズビアもスウィングもみんなで行こうよ、ね?」

 

「リリスさんの言うとおり、そちらのほうが、平和で幸せですよね」

 と、オキュラが言った。


「うんうん、みんなで言ったほうが楽しいからね」

 と、カーミラがうれしそうに言う。そして、彼女は僕に隣の生徒を紹介した。

「リリスちゃん、こっちはテレちゃん」


 きらきらとした金髪を持った色白のきれいな女の子で、コバルトブルーのワンピースを着ていた。


「て、テレーズ・オグルイです。人形魔族です……」

 と、彼女はおどおどした様子で言う。


「人形……?」

 たしかに、手首のところに球体関節がある。


「はい。人形魔族です。無機物でごめんない……」


「こ、こっちこそごめんなさい」

 特に何もしてないのに、申し訳ない気分になる。

「と、とにかくよろしく」

 僕は彼女と握手する。

 たしかに彼女の手に触れてみると、生き物のそれじゃなかった。冷たくて、つるんとしていた。


 がやがやとかしましいことがあったけど、そんなこんなで、僕、レズビア、カーミラ、スウィング、オキュラ、テレーズの六体の魔族の女の子は食堂へと向かった。



   ※   ※   ※



 食堂の中はごった返していた。魔族がうじゃうじゃいる。ちなみに、食堂は第七七食堂ということだった。ここ以外にも百個くらいあるらしい。


「ほら、あそこが空いてるよ」

 カーミラは窓際のあたりを指差した。数人分空いていた。


「私が席を取っておく。私の分と自分の分をこれで買うといい」

 レズビアがコインを渡してきた。銀色で魔王の顔が彫られている。

「このコイン一枚で一食分だ。ちなみに私はしょうが焼き定食だ」


「魔界にもしょうが焼きとかあるの?」

「そりゃあるが」


「えっと、僕も普通の食べていい?」


「まあ、何でも好きなものを食べればいい」


「やった!」

 よし、もう触手は食わないぞ。


「私もこの青いのと一緒に待ってるわ」

 と、スウィングがレズビアのほうを見て言う。


「誰が『青いの』だ。この爬虫類!」


 なんか、このふたりを残すの不安だな……。


 

  ※   ※   ※

  

 

 僕らはトレーを持って、カウンターに向かった。

 カウンターには、何体もの魔族のおじさんおばさんがいて、せっせと料理を生徒たちのトレーの上に乗せていた。

 僕はゴブリンっぽいおじさんから、レズビアのしょうが焼き定食と僕のカレーライスを受け取った。


「お、メイドさん、もうひとつはご主人様の分かい?」


「はい」


「どっちがお嬢ちゃんのだい?」


「カレーライスのほうです」


「淫魔族とか珍しいからさ~。それにすごくかわいいから、これお嬢ちゃんにサービスしちゃうよ」


 どぼどぼどぼどぼどぼどぼ。


 カレーライスの上に、青い触手が次々と降り注いでゆく。


「ぎゃあああああああ!」


 僕の……僕のカレーライスが……。


「淫魔族ってそれ好きでしょ」


「ううっ、ううっ……あ、ありがとうございます……」


「リリスちゃん、いいなー。サービスしてもらって」

 カーミラが無邪気に言う。


「かわいい女の子って得ですよね」

 と、オキュラも言う。


 そう見えるかい? 僕にとっちゃ散々だよ。

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