第20話 浮力
「リリスが変な気を起こすからだ」
レズビアがむっとした様子で言う。
僕とレズビアは二人で湯船につかっている。
極楽極楽だ。
ただ――
僕のおっぱいはビーチボールみたいにぷっくりとお湯に浮かんでいる。
ああ、おっぱいってマジでお湯に浮くんだな。
レズビアはそのおっぱいを指でつんつん突っついてくる。
「や、やめてよ。変な気なんて……」
いや、起こしてたな。
僕もちょっと興奮しちゃって。
「おい、リリス、せっかく髪洗ったのに、ふぁさーってなってるぞ」
「ん?」
たしかに僕のピンク色の髪の毛は、湯船の中で海草みたいにふぁさーってなってる。
「どうせ出るときまた流すし」
僕はぶくぶくとお湯の中に顔をつける。
「何をやっているのだ?」
僕はばさっとレズビアの近くで浮上する。
「わわわっ! な、何をするんだ」
「びっくりした?」
「沈めてやろうか」
レズビアは僕の角をがっしりとつかんだ。
「タイム! タイム! それシャレにならないから」
レズビアは僕の角から手を離す。
「レズビアは、兄弟と仲いい?」
「特に良いわけでもないというか、そもそもあまりお互いに干渉しない」
「僕は一人っ子だけど、それってちょっと寂しくない?」
「別に普通だ」
「アネリアさんはレズビアに友達いないって言ってたけど」
「だから、いないのではなく、あえて馴れ合わないのだ」
「でも、レズビア、今日カーミラとスウィングと食事して、ちょっと楽しそうだったけど」
「それはリリスが……そう、リリスが楽しんでいただけだろう?」
「むしろつらいことばかりなんだけど」
レズビアに痛い思いをさせられるし、スウィングにディスられるし、変なもん食わされるし、みんなおっぱいばっか見てくるし。
もちろんカーミラと抱き合ったりと、楽しいことはあったけど。
「ずいぶんと順調に順応しているような気がするな。私の調教のおかげだな」
「だから調教言うのやめて」
レズビアに言われて気づいたけれど、たしかに徐々に慣れてしまっている気がする。
むこう1ヶ月くらいは絶望に打ちひしがれて自暴自棄になってしまうかと思ったけれど、意外とそうでもない。
それがまた自分の心の中でもやもやする。
もっと絶望するはずなんだ、ずっとずっと帰りたい気持ちが強いはずなんだ、と無理に思おうとしている節もあるような気もする。
僕は元いた世界のことを考える。
父さん、母さん、それにバイト先のこと。
最近かわいい高校生が入ってきたなーとか。
あの社員またムカつくこと言ってんなーとか。
バイトが終わって、コンビニでビールを買って、スマホゲームをやりながら飲む、と。
……ううん、そんなにいい思い出でもないな。
いやいや、元の世界に帰らないと。元の姿に戻らないと。
物質文明最高! 人間最高!
……
…
「リリス、少しのぼせたか?」
「え? うん、ちょっと……」
「あがるか」
「そうだね」
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