第16話 魔の湯

 長い煙突がついた建物が魔王城に隣接していた。

 その入り口の暖簾には「魔の湯」と書かれている。


「これ、銭湯じゃん!」


「7番目の兄が銭湯マニアで、自分で作ってしまったというわけだ。今では、魔王城の居住者がよく利用している」


「なんか世界観壊れる」


「魔界だからな」


「そうかぁ、魔界だからかぁ」

無理に納得するしかない。


 入ると、僕らのほかに利用者はいなく、カウンターにはメイドさんがいた。

 ビクトリア朝ふうのクラシックなメイド服を着ている。


 顔は美人だったけど、髪の毛が全部白いヘビだった。

 いわゆるメドゥーサってやつ?


 やばっ、顔見ちゃった。石にされる。

 もう遅いかもしれないけど、さっと顔を背ける。


 てか、またまた世界観壊れるね。

 まあ、僕もメイドなんだけど。


「レズビア様、新しいメイドさんですか?」

 と、メドゥーサのメイドさんが言う。


「リリスという淫魔族だ」


「私はここを管理している蛇髪魔族のメイドのメルビーと申します。リリスさん、よろしくお願いしますね」


「は、はい。よ、よろしくです」


「淫魔族のメイドさんなんて珍しいですね。奔放な性格の方が多いと聞きます」


「たしかにリリスも割りと奔放だな」


「どこがだよ。めっちゃ従順だし」


「ところで、何でリリスさんはさっきからそっぽを向いているんですか? ひとりあっち向いてホイですか?」


「そんな変な遊びをしているんじゃなくて、その……石にされるんじゃないかって……」


「ああ、それなら大丈夫ですよ。私はわるーい子しか石にしたりしませんから。あ、リリスさんはわるーい子なんですか?」


「ち、違います。僕はわるーい子なんかじゃありません」


「それなら、こっちを向いてください」


「はい」

 僕は慌てて、メルビーさんのことを見る。

 ふぅ……。どうやら石にされる心配はないようだ。


「あら、とてもかわいらしい」


「ど、どうもです」


「石……じゃなくて、お人形さんみたいに、色々なお洋服着せてあげたいですね。あ、あと、ツインテールとかも似合いそうですね」


「今何か言いかけませんでした?」


「いえいえ気のせいです。私はメイドの先輩ですから、わからないことがあったら何でも聞いてくださいね」


「はい」

 ちょっと気になる発言があったけど、どうやらメルビーさんはいい人(魔族)そうだ。

 もしかしたら僕の味方になってくれるかも。


「さて、リリスのエローい肉体のお披露目といこうか」

 と、レズビアがにやけながら言う。

 何だよ、その言い方。


「リリスさんはエローい子なんですね。さすがは淫魔族さんですね」


 はぁ、エロいエロい言われてもまったく嬉しくないんだけど。


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