第12話 スライムもぐもぐ

 僕もお腹が空いていた。

 でも、目の前にあるこの冒涜的な何かを到底食べる気にはなれない。

 いいにおいは漂ってくるのだけれど、それが無性に腹立たしく感じる。


「食わず嫌いはよくないぞ」

 レズビアはうまそうに料理を口に運ぶ。


 スウィングもよほど空腹だったのか、無我夢中といった様子で、がつがつと食べている。


 カーミラは、僕のことを心配した様子で見つめ、

「ねえ、リリスちゃん、あーんして」

 と、スプーンに乗ったスライムを、僕の口に近づけてくる。

「食べたらおいしいから、ね?」


「私がいったこと気にしているのかしら? だったら、悪かったわよ」

 スウィングはバツが悪そうに言いながら、ほっぺたを軽く掻いた。


「そうじゃないんだけどさ……」


「食べるのが嫌なら、餓死するしかないな」

 レズビアは突き放したように言う。


「うっ……」

 たしかに食べ物を食べないで生きていくことなんて不可能だ。

 でも、屋台の串焼きみたいな普通の料理もあるのに、なんでったって、レズビアはこんなゲテモノばかり注文したんだ。


「リリスちゃん、ちょっとだけ。ちょっとだけでいいから、食べてみて」


「う、うん……」

 考えてみれば、こうして女の子に「あーん」されるなんて、まるで夢のような話じゃないか。


 けど、これスライムだし。眼球もついているし。

 ひっ! 僕のことを見つめているぅ! こ、こっち見んなよ!


 ううっ……。でも、触手とか人面野菜とか巨大昆虫とかに比べたら、まだマシか。

 ゼリーのようなものだと思えばいいか……。


 これはゼリー。

 これはゼリーだ。


 僕は目をぎゅっとつぶって、ままよ、とカーミラが差し出したスプーンを、ぱくりと口の中に入れる。


 あ……。


 うまい。

 異様にうまい。

 超うまい。


 スライムが口の中で軽やかにすっと溶け、弾けるように甘い味が舌に染み渡っていく。

 眼球も適度な柔らかさがあって、口の中で転がすと、妙に気持ちいい。

 ぷつりと眼球を噛み砕くと、汁がぴゅぴゅっと吹き出し、甘酸っぱい味が口全体に広がる。

 まるで味の遊園地や……。


「おいしい?」


「うん、おいしい……」


「よかった!」

 カーミラが満面の笑みで言う。


 それから僕は次々とスライムを口の中に運んでいく。


「リリス、どうした? 美味すぎて泣いているのか?」


「え?」

 たしかに僕は涙を流しながら食べていた。

 

 僕はそう、このスライムが美味いからこそ泣いていたんだ。

 こんなものを美味く感じてしまう、この今の自分の身体に絶望してね!

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