第10話 頭の羽は何のため?

 僕とレズビアとカーミラの三人(いや、三体か?)がスウィングを見つめる。


「謝りゃいいんでしょ、謝りゃ。ごめんなさいねー」

 スウィングはいかにもおざなりな謝罪をする。

 でも、謝るってことは、飯にはありつきたいんだろうな。


「どうだ、リリス? このトカゲ女、ふざけた態度とっているが」


「誰がトカゲよ!」


「まあ、別にいいよ。なんかめんどくさくなってきた。レズビア、おごってあげれば」

 スウィングの発言はもちろん気に入らないけれど、僕は弱い魔族みたいだし、面倒事はごめんだ。

 うまいことここでの生活をやり抜けながら、元の世界に帰る手立てを見つけないといけないんだから。


「リリスがそういうのなら、別にいいが」


「ねえねえ、じゃあ、みんなでご飯食べに行こう!」

 とカーミラがうきうきした様子で言う。


 こうして僕ら四体の魔族は一緒に食事に行くことになった。

 堕落街の西の隅にある食堂がレズビアのお薦めということだったので、僕らはそこに向かうことにした。


「魔王の娘として、寛大な心で全員の食事代をおごってやろう。感謝するがいい」

 と、レズビアが得意げに言う。

「特に、そこの爬虫類」


「だから爬虫類でもトカゲでもないわよ」


「ねえ、レズちゃん、あたしのぶんもいいの?」

 と、カーミラ。


「ああ、レズちゃんと呼ぶのをやめればな」


「わかりました。レズビーちゃん」


「ちゃんと最後の『ア』も発音してほしいが……」


「ねえ、カーミラのその頭の羽って、空飛べるの?」

 と、僕はずっと疑問に思っていたことを言う。


 カーミラはぽかんとしたあと、

「リリスちゃん、何言ってるの? これは飾りみたいなものだよ」

 彼女は頭の羽をぴくぴくと動かす。

「けっこうかわいいでしょ?」


「たしかにかわいい」


「ありがとう! リリスちゃんも超かわいいよっ!」

 カーミラが僕にぎゅっと抱きついてくる。

 

 こんなふうにかわいい女の子に抱きつかれるなんて、魔界も捨てたもんじゃないかなーって。

 そう思ったけど、カーミラが鋭い牙をきらりと光らせたので、僕は慌てて距離をとった。


「リリスちゃん、大丈夫だよ。あたし、血吸おうとしてないから」


「本当に?」


「ほんと、ほんと。だから、一緒に手をつなごう?」


「う、うん」

 僕はカーミラの小さな手をとる。

 彼女の手はとても柔らかかった。


 今日は女の子と急接近したり、抱きつかれたり、一緒に手をつないだりと、色んな実績解除が一気になされたな。


 僕とカーミラとのやりとりが一通り終わると、スウィングがやれやれといった様子で、


「吸血魔族のこともろくに知らないなんて、巨乳はバカだっていうけど、本当なのね」


「ば、バカじゃないし。それ偏見だから」


「でも、そういうリリスちゃんの天然なところも、かわいいねっ」


「カーミラ、僕は天然でもないからね」

 これでもいちおう大学は出てるし。三流の私文だけど。


 そうこうしているうちに、


「おい、そこの三バカ、着いたぞ」

 レズビアはひしゃげたキモい岩のような建物(といっていいんだろうか?)を指差す。


「誰がバカよ!」


「あたしたち仲間だねっ! やったね!」


 いや、カーミラ、僕らディスられてるんだけど……。

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