第9話 スウィング

「カーミラは吸血魔族だ」

 と、レズビアが言う。


「吸血鬼ってこと?」


「まあ、そういうのもだな」


「うんうん、そうだよ。血ぃ吸うたろか!」

 カーミラがはしゃいだ様子で言う。


「ちょっと待って。それ痛いよね? めっちゃ痛いよね?」


「大丈夫だよ。痛いのは最初だけだから」


「そんなことないでしょ。割りとずっと痛いでしょ。てか、最初痛いのも嫌だからね」


「別に良いだろう。減るもんじゃあるまいし」

 レズビアは呑気なことを言う。


「明らかに血減るよね?」


「リリスちゃん、ごめんごめん。リリスちゃんの血、おいしそうだったから、ワンチャンあるかなーって言ってみただけだよ」


「ワンチャンないよ。ノーチャンだよ。ねえ、もう血を吸おうとかしない?」


「うんうん、寝込み襲ったりとかしないから大丈夫」

 

 ちょっと不安だけど、まあ、いいか……。


 と、安堵していたところ、

 ふと、カーミラが知り合いを見つけたらしく、


「あっ! スーちゃんだ。スーちゃあああああん!」

 と大きく手を振る。


 呼ばれた少女は、バツが悪そうな顔をして、不承不承といった様子でこちらに来た。

 

 彼女は、美しい金髪のロングヘアをしていて、

 白い肌と青い瞳を持っていた。

 白のフリルがついた水色のドレスを着ていて、清楚な印象を与えているが、ちょっとスカートの裾のフリルがとれかかっている。

 

 やっぱり彼女も魔族であるらしく、背中にはプテラノドンみたいな緑色の翼が生えていて、頭に銀色に輝く鋭い角。

 そして、スカートの間から、緑色の太い尻尾が覗いている。


「レズビアと愉快な仲間たちじゃない?」


「スウィング、何か用か?」

 レズビアがジト目で言う。


「用もなにも、そっちが呼んだんでしょ!」

 スウィングと呼ばれた少女は、足で地面を踏み鳴らす。

「そういえば、その奇乳のメイドは誰なの?」


 奇乳って。

 初対面のくせに失礼な奴だ。


「私の新しいメイドのリリスだ」


「もしかして、淫魔族? そんなビッチをメイドにするなんて、魔王の娘も地に落ちたわね」

 スウィングはさっと髪をかきあげる。


 び、ビッチって。


「ひとのメイドを馬鹿にするな。それに、落ちぶれているのはお前のほうだ」


「何よ何よ」

 スウィングはぷりぷりと怒っている。


 そんなとき、突然、


 ぐううううううううううううううううううう


 と、彼女のお腹が鳴りはじめた。

 スウィングは顔を真っ赤にして、そっぽを向いた。


「満足に食事にもありつけないなんて、相変わらず相当だな。リリスに謝ったら、恵んでやらないこともない」

 それからレズビアは僕のほうを向いて、

「スウィングの属する竜魔族は、最近まで生意気にもかなりの栄華を誇っていたが、今ではすっかり落ちぶれたってわけだ」


「ふーん」

 別にかわいそうとかは思わないかな。

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