第5話 ちょ……いや、訓練

「ここが、リリスの部屋だ」

 レズビアが扉を開けながら言う。

 ちなみに、彼女の部屋の真隣にある。


 中を覗くと、石造りの室内に簡素なベッドと戸棚があるだけだった。


「なにこれ、牢獄?」

 ここで寝泊りするわけ? いやいやいや。


「前のメイドはあまり部屋とか気にしなかったからな」


「いや、気にしなさすぎでしょ。前のメイドってどんな人……いや、魔族だったの?」


「蜘蛛魔族だ」


「蜘蛛魔族? 蜘蛛ってあの虫の?」


「ああ。上半身が人間で、下半身が蜘蛛なのだ」


「モンスターじゃん」


「魔族とモンスターは違う!」

 レズビアは例のでっかいフォークっぽいやつを僕に向ける。


「ひっ。だから凶器向けるのやめて」


「お前は人間みたいなことを言うな」


「だって人間だし」


「もう人間は卒業したはずだ」


「卒業してないからね?」


「まだ魔族としての自覚と誇りが足りないようだな」


「そんなこと言われても、この姿にされてまだ数時間しか経ってないし」

 新しい職場とかに慣れるのだって、数週間かかったりするじゃないですか。

 まして、性別と種族が変わっちゃったわけで、それはそれは慣れるのに長い時間掛かるはずですよ。

 いや、慣れたくなんてないけれど。


 レズビアはでっかいフォークっぽいものをポケットにしまう。

 って、え?


「それ、どういう仕組みになってるの? 四次元ポケット的なやつ?」


「これは小さくすることもできる。でかくて割りと邪魔だからな。ちなみにフォークとして使うこともできる」


 やっぱりフォークなんだ。


「リリス」

 レズビアが真剣な目つきで僕を見る。


「は、はい」

 僕は思わずかしこまってしまう。


「少しこっちに寄れ」


「う、うん」

 とりあえず僕はレズビアの近くに寄る。

 まさか、ぶすりとやってこないよね? ね?


 でも、あらためて見ると、レズビアの顔は整っていてとても美しかった。

 青い肌も、南国の海みたいに透き通っていて、綺麗だ。

 ふっと彼女の紺色の髪から、いいにおいがしてくる。

 魔族っていっても、女の子なんだよね。


 僕の心臓が早鐘を打つ。

 これってまさか、百合的な展開とかそういうの?

 据え膳食わぬはなんとかっていうし、やぶさかではないけれど、いや、こ、心の準備が……。


「さて」

 レズビアはおもむろに両腕を構える。


「え? な、何……?」


 レズビアは、突然――


 僕の胸をわしづかみにしてきた。


「ひゃ、ひゃあああああああああああ!」


 レズビアはメイド服の乳袋をむにむにむにむにと揉んでくる。

 揉みしだいてくる。


「な、何すん……ひゃ、ひゃああああああ! あ、あああ……」


「私が悪かった。まずは段階を踏まないとな」


「だ、だんはいぃ? ひぇ……ふぇ……ふぁ……」


「まずは女としての自覚を持たせ、その次に魔族としての自覚を持たせる。さらにその次に淫魔としての自覚を持たせ、最後に私のメイドとしての自覚を持たせる。そういった調教をすることで、リリスは淫魔族のメイドとして完成されるのだ」


「ちょ、ちょうひょうって……ふえぇ……」


「どうだ?」


「ど、どふぉっへ……ら、らめぇ……」


「これくらいで勘弁してやろう。これ以上リリスのアヘ顔を見るのは忍びないからな」


「はぁ、はぁ」

 僕は肩で息をする。マジでそんな顔してたの?

 恥ずかしいやら、気持ちいいやら、情けないやらで、もう消滅したいくらい。


「これでわかったろう? もうお前は男ではないのだ」


「そ、それはもう自覚してたよ!」

 こんな姿で男だって主張できないからね!


「しかし、なかなかの揉み心地だった。次はナマ乳だな」


「やめてって。ただおっぱい揉みたかっただけじゃないの? 自分の胸揉んでなよ」


「それは私に対する侮辱か?」

 レズビアは眉根を寄せながら、苦笑する。

 マントで隠されているけれど、どうやら小さいようだ。


「ち、小さいのもいいと思うよ」


「ふん!」

 レズビアは再び僕の胸をつかんできた。で、今度はつねってくる。


「痛っ、痛っ! やめ、やめて!」


「これも調教の一環だ」

 そう言うとレズビアは僕の胸から手を離した。


「調教って言葉使うのやめてほしいんだけど」

 僕は胸をさすりながら言う。


「じゃあ、訓練だな」


「それならいい……って、この行為自体やめて」


「それは無理な相談だ。さて、次は魔族としてちょうきょ……ではなく訓練をしよう」


「嫌な予感しかしないんだけど」

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