第6話 堕落街

「そろそろ夕飯の時間だ」

 とレズビアが言う。

「これから『堕落街』に行って、夕飯をとることにしよう」


「『堕落街』?」

 と僕は聞く。


「魔王城と魔界学園の間にある歓楽街だ。そこにはうまい食べ物も、様々な商品も、色々な娯楽もそろっている。もともとは『多楽街』と言っていたのだが、あまりにも堕落する学生が多く、そのうち『堕落街』と呼ばれてしまったのだ」


 たしかに窓の外を見ると、夜闇の中にひときわ輝く一帯があった。そこが「堕落街」というやつなのだろう。


「さあ、リリス、屋上に行くぞ」


「屋上? 何で?」


「リリスの背中に乗って、空を飛んでいったほうが早いからな」


「え? 僕そんなタクシーみたいな存在なの?」


「せっかく翼があるのだから、それを活用しない手はないだろう」


 まさか、僕をサキュバスの姿にしたのは、サキュバスに翼が生えてるからってことじゃないよね?


 僕には拒否する手段もないので、レズビアに付き従いながら、塔の屋上までいく。


「どうだ、綺麗な景色だろう」


 レズビアが言うように、高いところから一望する魔界は、とても素敵なものだった。

 堕落街と呼ばれているところが、より一層輝いているけれど、それ以外にも魔族たちの営みによる光が、さっと眼下に広がっている。魔族たちも生き物で、こうやってそれぞれ暮らしているんだな、と感慨にふける。


 そうやって、景色を見ていると、

 いきなりレズビアが僕の背中にまたがり、抱きついてきた。


「お、重っ」


「今重いと言ったか?」


「いやいや、重くなんてないです。超軽いです」


「リリスは嫌味が多いような気がするが……まあいい。さあ、飛べ」


「この高さ、大丈夫? 失敗して落ちたら死ぬよね?」


「魔族は人間よりも丈夫だが、たしかに落ちたら死ぬな」


 ちょっと怖いけど、仕方がない。僕には断ることなんてできないのだから。

 僕は背中の翼に力を込め、はばたかせる。


 そして、屋上の欄干を乗り越え、魔界の夜空へと飛び込んだ。

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