第2話 黒い翼で

 ここは魔王の城ということだった。廊下も壁も天井も石造りで、いかにもって感じだった。

 鉄格子が嵌められた窓からはおどろおどろしい赤い空と黄色っぽい雲が見える。

ああ、気が滅入りそう。

 しかも、この身体にどうにも慣れそうになんてない。

 歩くたびにおっぱいが揺れるし、足元が見えにくいし……。


 僕は自分の胸の谷間を見ながら、

「淫魔ってことは、もしかして、あの……」

 僕は言いよどむ。その答えを聞いたらショックで立ち直れなそう。


「そうだな。もちろん、男を誘惑して、男の『精』を吸い取ったりすることができる」


「や、やっぱり。そんなことしたくない」


「嫌ならしなくてもいい。ただ魔力を補充できないから、魔術のたぐいは使えないが」


「そんなことするくらいなら、魔術とか使えなくていいよ」


「たしかにメイドが魔術を使う必要もない」


「じゃあ、その男と云々はしなくてもいいってわけ?」


「そうだな」


「よかった」

 僕は胸をなでおろす。そのとき、ふと背中の翼が視界に入った。

「もしかして、この翼で空とか飛べるの?」

 僕は背中に神経を集中させる。おお、ちょっと翼がばさっと動いた。


「それはもちろんだ」


「じゃあ、飛んで移動してみてもいい?」


「どこの世界に主人を置いて、先に飛んでいこうとするメイドがいる」


「ちょっとだけ、ちょっとだけだから」


「それならよかろう。その身体にも慣れてもらわないといけないからな」


 僕は翼に力を込めて、羽ばたかせる。

 ばさりばさりと風が起こり、身体がふっと軽くなる。


 おお、宙に浮いた。

 すごい、マジで飛んでる。

 すーっと旋回なんかもしてみる。

 すごく気持ちいい。


 あ、レズビアには羽ついてないみたいだし、このまま逃げちゃおうかな。

 こんな高飛車な悪魔に拘束されるなんて癪だし。

 逃げ出してどうにか元に戻る方法を探る、と。


 僕は旋回の練習をしていると見せかけ、逃げる機会をうかがう。

 

 よし、今だ!


 僕はスピードをあげて、レズビアから離れようとする。

 が、


 痛っ!


 お尻のあたりに強烈な痛みを感じた。

 振り向くと、レズビアが苦笑しながら、僕の尻尾をつかんでいた。


「まさか、逃げようとしたのではないだろうな」


「す、スピードを上げる練習をしようと思っただけです。尻尾引っ張らないで。痛いから」


「ふーん。まあ、よかろう。もし逃げようとしたら、エロ同人みたいな拷問にかけてやるからな」


「ひっ、ひえっ! に、逃げないから」

 僕は床の上に降り、すなおにレズビアに従って歩く。

 この悪魔め……お約束として、僧侶的なやつに聖なる光的なものを浴びせられて消滅でもさせられてしまえ。

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