6 夏帆と恋

「あ、ヨッシー」

「こ、こんにちは、夏帆さん」


 吉伊、もといヨッシーと再開を果たしたのは、例のバス停だった。夏帆に会うためにわざわざバス停まで来たのか、それともただの偶然か。そんなこと、聞かずにだって分かる。


「ヨッシー、家ってこっちの方なの?」

「い、いえ。違います」

「前、バス乗らなかったもんね」


 夏帆はまだきょとんとしてる。こいつは、ほんと、気持ちがわからないのかねー。ヨッシーが何のために乗るつもりもないのにバス停まで来て、あんたを待っていたか。私よりずっと経験が豊富なはずなのに、鈍感で、明るくて、可愛くて。そういうところがモテるのかな。


「その、ちょっとでもお話できたならなって」

「あー、そういう。いいよ。ベンチ座ろうぜ」


 私、夏帆、ヨッシーの順番で座れば、緊張はある程度少ないだろう。美女二人に華見込まれたらひとたまりもないだろうから。ふふふ。


「そういえばさ、その制服。どこ高?」

「あ、梁瀬やなせ高です」

「ええ!? あの梁瀬?」

「どこさそれ」

「あんたバカホント。超頭良いとこよ」


 梁瀬高校。記憶している限りでは、都内ではトップ5に入る実力者集団。とにかく賢い。高校生だけのクイズ大会では必ず上位に食い込んで、何度か優勝経験もある。偏差値はモロ高。インターネットではIQ150以上は入学できないなんて噂が付くほど。


「そ、そんなことないですよ」

「マジかよ。ヨッシーすげえな!」

「いえいえ……ふふ」


 これはとんでもないビックホースが周りに居たもんだ。頭は良く顔も良い、なのに腰は低くて可愛い。ヨッシー、名前に見合わぬ凄まじさだ。その柔らかいあだ名を物ともしない性能。いや、ヨッシーは夏帆が勝手に決めたものだけど。


「趣味とかあんの」

「あ、読書です」

「へー、最近読んだ本は」

「先日、久しぶりにシャーロック・ホームズを読みました」


 夏帆が顔を180度回転させて、何それと言うと、私はその顔が無性に腹が立った。

 おま、シャーロック・ホームズくらい聞いたことあんだろうがよ。なんでわかるのって、むしろなんでわかんねえんだよ。会話続かないって、知らねえよそれ。己の知識不足を呪うがいい。


「あー、知ってる。超面白いよねシャロップ・マーズ」

「あ、あはは」


 ほら、ヨッシー気遣っちゃってんじゃんもう。本当にこんな奴で良いのかな。でも、本人が良いならそれでいいのかな。私が決められることじゃないわけだし。はー恋ってめんどくさい。

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