7 夏帆と約束
「あの、僕も夏帆さんのこと、もっと知りたいです」
「あー、私の事ねぇ」
夏帆の事、か。なんだろう。
脂っこいものがあまり得意ではないとか。から揚げとか、割と2、3個でうげーってなっている。
実は真面目。ていうか、中学校までそういう性格だったんだから、そのまま受け継がれたものなのだろう。シャーロック・ホームズは知らないけれど。いや、どこか抜けているところがあるだけなのか。英単語が部分的に記憶から消去されていることが多々ある。
過去のピアノ経験が現在の自分にも多少依存しているように、性格や感じ方も影響しているのだろう。夏帆のダンス同様に。
ふけながら考えていると、私の夏帆に対する考え方が浮かび上がる。
夏帆……ダンス、もう一度始めたらいいのに。
「別に、何かある訳でもないし」
「あるじゃない」
「……何が?」
「……ダンス」
「夏帆さん、ダンスやっているんですか?」
「あー……まあね」
「是非、見てみたいです!」
私の一言以来、夏帆は顔が暗い。それは当然の事だろう。私が何故夏帆に、ダンスの事を思い出させたのか。先日、ようやく自分の願いが叶ったという自己陶酔に陥っていて、夏帆をおちょくったのか、それとも夏帆にダンスを再開してほしいという思いがあるからなのか。
私にもわからない。きっと、夏帆も分かったもんじゃない。私たちは思考がきっと一致している。けれど、何故ここまで分離が進んでいるのかというと、きっと進み方。進歩状況の違いでしかないと感じている。
前を走る車のように、私は止まることは無かった。何気なくずっと続けていれば、経験値が積み重なってコンサートに参加するまでに至った。
今停まるバスのように、どこかで夏帆は止まってしまった。だけれど初めはハイスピードで、他人を巻き込んでまでばく進を続けた。
「それは……」
「やってあげたら? ダンス」
「……沙合、私はもうダンスやらないって言ったじゃない」
「だけど……いい機会だと思うの。ヨッシーが見たがってる」
見たがっている。見たいと思ってくれる誰かがいる。それを伝えたい。私は言葉ではなく譜面や音階でしか伝えられないけれど、これでも必死に伝えたつもり。貝殻の中にいるヤドカリに、手紙を書くように。
「……考えてやるよ」
「ありがとうございます!」
後部座席を陣取った夏帆に、どこか後悔の念を感じる。一時の気の迷い。どうして了解をとっちゃったんだろう。きっとそんな感じ。でも、夏帆のダンスを見たいのはヨッシーだけじゃなくて、私もなんだから。
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