第6話 エロ描写が書けない

 俺こと駒田翔吾のスランプは続いていた。


「妹よ。ネット小説で大事なことって何だと思う?」


「はあ、面白さじゃないの」


 妹の駒田歩は俺の部屋でポテチを食べながら、ベッドで漫画を読んでいる。当然、俺が部屋に呼び寄せた。昨夜、勝手にドラクエと本体を盗んでいった罰として、あることに協力してもらう予定だ。


「違うぞ妹よ。まるで違う」


「お兄の起伏のない平坦な物語じゃPV稼げないもんね。面白くない」


「――ガガッ!」


 俺のガラスのハートにとげが刺さる。

 面白くない。言われなれている。十人十色で人それぞれ。

 面白くないっていう人が100人いても1人、面白いって言ってくれる読者がいれば十分だ。100人乗っても大丈夫イ! なんつって。


「たしかに面白さも大事だ。でもそれ以上に大切なことがある」


「なあに?」


「エェロォス。エッチな描写こそ男の美学だ」


「はあー???」


 妹にゴキブリを見るような目で見られた。


「死ねばイイ」


 妹にスリッパで叩かれた感じの発声を受けた。


「女にはわからんかもしれんがエロこそネット界におけるサーフィンの根源だ」


 男ならわかるかもしれない。ネットを始めると知らぬ間にエロサイトやエロサイトやエロサイトにたどり着いてしまう。無料のサンプルを垂れ流しては自分の欲する心に正直にクリックと戻るのトライ&エラーを繰り返す。

 そして1時間も2時間もかけては至高の一品を見つけ出し、高級食材を堪能する。


「これは文章にもいえることだ。ラノベなんかエロ描写の宝庫だぞ。いかに男子中学生や高校生の下半身を刺激するかで、売り上げに影響を与える」


「出たラノベオタ。きもっ」


 妹の苦言を受けて我慢する。これも小説のため。

 面白いケータイ小説ができるならば俺は苦痛に耐えよう。


「とあるニーズはラノベに面白い戦闘や会話劇なんて求めちゃいない。エロ、エロ、エロスなんだ。エッチな絵と文章で世の男子を虜にするんだ」


「はいはい。公園でエロ本でも拾ってきなさい」


「今の男子はエロ本なんて買わずに電子書籍でエロ媒体を買うよ」


「きもぉ兄おつ」


 ケータイ小説でラノベもどきを書く身分としては是が非でもエロを加えたい。

 エロがあれば世界が救える。俺はエロチシズムに打ち震えていた。

 だがしかし!


「だがしかし、エロ描写が書けない!」


「なんで? ベッドの下にいっぱいエログッズあるじゃん」


 妹が勝手にベッドの下にあるコレクションを引っ張り出す。二次元から三次元の数々を網羅した逸品たち。

 グラビア、ヌード、美少女文庫、エロアニメ、美少女ゲーム、AVの山。

 18禁でも親戚のお兄ちゃんのっていえばセーフだ。(言い訳)


 妹がレーザー光線の出そうな視線で睨んでくる。AV撮影しそうなダメ妹のくせに発言が厳しい。


「お兄ってアニメからリアル女性まで、きもっ、ロリから三十路の人妻まで、きも、ストライクゾーン広すぎ。げげっ、ジュニアアイドルまであるじゃん」


「16歳がJCグラビアを買って何が悪い。人の恥部をまざまざと後悔するな!」


 話がそれてしまったが本題に入る。

 俺は人生であまたのエロを体験してきたが、実際のエロ描写になると書けなくなってしまう傾向にあった。

 一度、エッチに書こうと思ったのだが。


「書いてみたら巨乳がボーン! とか。貧乳がポロリッ! とか」


「巨乳っ子からひんぬーまで見境なしですか?」


「男子中学生のエロは偉大なんだよ!」


 毎日ぬける。1日に2回、いや、男子中学生なら5回はいける!(キラリッ)


 俺は妹に悩みを打ち明ける。


「エロ描写って何? 男子中学生が興奮するようなエロって、チョメチョメすればいのか?」


「書いてみればいいじゃん。この子で!」


 妹が指さしたのは、JCアイドルの巨乳子ちゃんだった。


「わかった。エロ描写してみよう」


『JCの巨乳子は電車に乗っていた』


 妹が殴る。「痴漢ものか!?」


『JCの巨乳子は暗い夜道を歩いていた』


 妹が蹴る。「ハイエース(強姦)か!?」


『JCの巨乳子が水着になって海で泳いだ』


 妹が頭突きした。「男にナンパされて岩陰で強姦か!?」


「詳しすぎ。ゴフッ!?」


 俺は鼻血を吹きながら床に突っ伏す。ノートパソコンのキーボードが血で染まる。軽いホラーだ。


 妹が文章をすべて削除する。


「お兄のエロ描写って犯罪ばっかりじゃん。純愛ものじゃないの?」


「くそっ。俺のアブノーマルな変態性が世の中学生に当たらなかった。無念」


「たぶん、偏ってるからダメなんだと思う」


 妹がエロ描写に協力的だ。

 チ〇ポを隆起させてレンチーさんに見られてAVヌード撮影されたかいがあった。


 普段ラノベを勝手に盗んでいく俺の本棚から妹は手慣れた手つきで1冊のラノベを取り出した。


「お兄は発想が過激すぎ。これ参考にすればいいんじゃない。主人公とヒロインが夢のマイホームを買っていちゃいちゃする話。味方ヒロインたちが襲われそうになって一歩寸前で主人公が助けるMMORPG活劇」


「くそっ。裸にして主人公に迫ればいいのか? エロ描写。難しすぎるぜ」


「もういっそ18歳になるまで待てば?」


「俺は待てない。エロで閲覧数を稼ぎたいの! 稼がなくちゃダメなの!」


「ダメだこいつ。早く何とかしないと」


 結局、リア友にレンチーさんという偉大なお方がいて、エロ描写を書くとレンチーさんに幻滅される恐れがあったため、エロ描写はなしという結論が出る。


「お兄、これさ、親に見せれる?」


「たぶん死ぬ」


 その他もろもろ。俺は過激なエロ描写はNGということにした。

 18歳以上の描写は18歳になってからということで――お開き。

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