第5話 ネタがない
ケータイ小説は鮮度が命。
読者は毎日のように見てくれるので毎日更新したほうが良い。これはウェブ小説にもいえる。小説家になる、は面白さと更新速度が求められる。
俺は全員スターで新しいケータイ小説の書き始めることにした。
ここで問題が起きた。
「ネタがない!?」
自問自答する。
1万アクセスの壁が超えられず、レンチーさんのアドバイスとは別方面でスランプを乗り切ることにした。
7年ほど、4つのサイトでかけもちしながら小説を書いてきたわけだが、おそらくケータイ小説を書いて初めての大スランプだ。
「な、なぜだ。俺は1年間毎日更新して閲覧数1万の作品を2つも生み出したじゃないか?」
俺こと駒田翔吾は圧倒的ネタ不足に陥っていた。書くことがない。
小説家を目指すのに最低限の文字数が10万文字だと言われている。
これは文庫本1冊に相当し、仮に毎日1000文字を投稿すると、100日かかる。
俺は1日1000文字を目安として投稿し、毎日ファンタジー小説を書いてきた。
のべ100ページ。約3か月かかった作品に星爆や相互スターなどのテコ入れを加えて1万の閲覧数を実現した。
逆に言えばケータイ小説を100ページ書けば、どんな下手くその初心者でも閲覧数1万を達成することができる。
「その100ページが書けない」
挫折だ。たった数ページ。1万文字にも満たない分量でネタが尽きてしまった。
「これはもう遊ぶしかない」
書けない。
書き続けることは才能である。
ケータイ小説家として絶望的なスランプ。俺は自分自身でストライキを起こした。
ケータイ小説家の朝は早い。
毎日5000ページ以上、3か月で最低10万文字は書かないといけないといわれている業界で、俺は優雅にコーヒーを飲む。スランプだから仕方ない。
朝食を食べ終え、舌で苦みを堪能し、二度寝なるものを貪る。
ケータイ小説家の昼は早い。
毎日5000ページ以上、3か月で最低10万文字は書かないといけないといわれている業界で、俺は買ってきたばかりのドラゴンクエストに身をゆだねる。スランプだから仕方ない。
昼食を食べ終え、ドラクエを再開し、ポテチ&コーラで一人パーティーを開く。
ケータイ小説家の夜は早い。
毎日5000ページ以上、3か月で最低10万文字は書かないといけないといわれている業界で、俺は全員スターでスコップを始める。スコップとは、面白い作品を探す人を意味し、ランキングに載っていない閲覧数の少ないファンタジー小説を何作も読む。ネタがなければパクればいい。スランプだから仕方ない。
夕食を食べ終え、スコップを開始してケータイ小説だろうがウェブ小説だろうが、面白い作品の面白い要素を片っ端からパクる。メモする。
今日も俺は有意義なケータイ小説家生活を終え、ふとんに入る。
「あれ、俺、今日、1文字も小説を書いていない、だと!?」
ま、いっか。
こうしてケータイ小説家と名ばかりの(趣味でネットに小説を掲載している)ニートの一日が終わった。
明日は書こう。
俺が睡魔に襲われていると、部屋のドアをちょっとだけ開けた妹が、つぶやいた。
「やっと、寝たでた(ネタ出た)」
こっそり侵入し、ドラゴンクエストを本体ごとかっさらっていく妹に、うつろな俺はなすすべもなかった。
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