第4話 タマタマ
「タマタマッ!」
妹がゲームボーイ片手に部屋にやっている。
中古で売っていたゲームボーイ本体とポケモンRED。
今の子はジバニャンだのパスカル先生だのかもしれないが、ひと昔前はヒトカゲ、ヒシギダネ、ゼニガメと初期ポケモンを選んで楽しんでいた。
「あほみたいな声出してどうしたんだ妹?」
「だってタマタマだよ。タマタマ、ふなっしーに進化するんだよ」
やけに興奮した妹が俺のベッドを独占して寝転がりながらポケモンをプレイ。タマタマの歌を作詞作曲して歌いだす。
きっと、おちん〇ん、とか。おま〇こ、とか下ネタを連呼したいお年頃なのだ。
「となりのタマタマ、タマタマ♪ タマタマ、タマタマ♪ お兄の中に むかしから住んでる♪」
チ〇コは男の勲章だ。中二ふぜいの小娘にわかるロマンではない。
「レンチーさんと全裸の♪ 不思議な出会い♪」
「やめろ。お前が脱がしてAV撮影しだすからだろ!?」
一生の不覚。恩師レンチーさんにチ〇コを見られた。
妹はベッドから起き上がり、目の前までやってくるとケータイ小説を書いている俺を立ち上がらせて、おもむろに助走をつけて、
「タマタマ、ファック!」
俺のチ〇コを蹴り上げた。
「ぎゃぁあああ!!!???」
「女を部屋にあげんなよ、くそお兄」
レンチーさんを読んだのでご機嫌ななめだたらしい。
たしかに友達の少ない俺が家に友達を呼べば同類の妹は機嫌が悪くなるかもしれない。でも、だからってタマタマ蹴りはひどくない?
「のぉおおおおおおおおお!!!???」
男の勲章を蹴り上げられた俺は悲鳴をあげながらチ〇コを手でおさえて、右に左に床をごろごろ転がり続ける。
レンチーさんから教えてもらった創作技術や閲覧数を増やす方法が一瞬で真っ白になる。それくらい妹のタマタマ蹴りは威力のあるものだった。
妹、おそるべし。
2時間後。
「読書でもしようか」
チ〇コの痛みがひいて夕食を食べ終えた頃合い。
俺はパソコンに向かってケータイ小説を書いている。しかし、続きがまったく浮かばない。
クリエーター目指すもの、常にトライ&エラー。毎日のようにインプットしろ、と有名な作家も言っていた。ケータイ小説を書くのも大事だが、アウトプットするのも大事だ。読んだ本の量が作品の質をあげる。
「これでも読むか」
本棚から適当な書籍をとる。
ラノベは楽しいが、ラノベ以外も楽しい。
小難しい科学書やお偉い人の書いた学術書もタメになる。
妹は自己啓発書にハマっていた。
今日の1冊はこれ、ディーン・R・クーンツのベストセラー小説の書き方。
日本での初版が1996年なのに今なおヒットをとばしている化け物だ。
「なになに最初の3ページが勝負だぁ?」
ここ数年のあいだに読んだ原稿から判断すると、新人作家の99パーセントが、小説の書き出しで同じあやまちを犯している。それも絶対許されないあやまちだ。彼らは小説をはじめるにあたって、主人公を過酷な困難にほうりこもうとしないのである。もしも出だしで読者の心をつかむことができなかったとしたら、第1章の終わりまで読者を引っ張っていくことさえできないだろう。(ベストセラー小説の書き方。P106より引用)
「ケータイ小説で例えるなら最初の3ページでブラバされないようにってことか」
パソコンからワードを立ち上げて、試しに最初の3行をかいてみることにした。
小説のテーマは妹とのドタバタコメディ。それが伝わるような3行を書きたかったのである。
『「お兄ちゃんのチ〇コ」
妹はまじまじと兄貴の下腹部を見つめていた。
バットで素振りをしながら、今か今かと襲撃に備えていた。』
「怖いわ! なんで妹が金属バットで素振りしながら兄貴のチ〇コ狙ってるんだよ!?」
主人公が苦境に立たされるのにこれほど良い材料はないが、妹の素振りは軽くホラーだった。
さきほどのトラウマか。心象風景が文章にまで影響を及ぼしている。
書き直した。
『11時57分。
勃起したビッグマグナムと金属バットがぶつかる。
世にも恐ろしい妹の襲来の始まりである』
俺は脱力した。どうやら妹の金属バットから逃れるすべはないようだ。
結局、10種類の3行小説を書いてみたものの納得する始まり方は見つけられなかった。ただ、この日学んだことは、3ページもしくは3行で読者の心をつかまなければならないということだった。
ケータイ小説って難しいけど、すごい楽しい。
そう感じた。
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