第3話 星爆とか星爆とか星爆とか

 ケータイ小説では文章力や独創性、面白いかどうかも重要なのだが。

 閲覧数を増やすためにはある程度のコミュニケーション能力が必要になってくる。

 例えば、俺がレンチーさんとリアルで友達になったように、ファンの人にコメントを返したり、ケータイ小説の作家どうしでコミュニティを築いたりなどのコミュ力が大事になってくる。


 ケータイ小説の人気の目安となるのが閲覧数とスター制度。

 全員スターのサイトでは星の数を重視し、作家どうしで毎日のように星を投げ合ってランキングをあげるツワモノが何人もいた。


 ペットボトルのお茶を渡し、レンチーさんはお上品に口をつける。


「ツイッターやSNSで宣伝するのも大切だね」


 レンチーさんの場合は書いた小説が運営のオススメ小説として紹介され、みるみるうちにアクセス数を増やしていった。

 俺が1万アクセスで有頂天になっている時期、駆け出しだったレンチーさんにアドバイスをした。長年、全員スターを利用していた俺が上から目線にアドバイスしたにもかかわらず、レンチーさんは物腰柔らかに対応してくださった。


 これが社会人様というものか。

 まさか1つ上とは思わなかった。それほど大人びていて、社会性のあるレスポンスだった。


「妹のAV撮影ではないですが。モデルとして活躍したら売れるんじゃないっすか。漫画原作者&ケータイ小説家の素顔! その正体は花の女子高生! とか」


「そのキャッチワードは昭和くさいよ。なんかエロいし」


「全員スターで人気になるためなら適度なエロ描写だって正義です」


「星爆とか星爆とか星爆とか?」


 ――ぎゃぁあああ!!!

 俺は阿鼻叫喚。

 完全な黒歴史だ。


 『運命の英雄たち』を連載する前、全員スターで完全なアクセス数至上主義をとっていた俺は、閲覧数が増えればどんなことをしてもいいと考えていた。

 その手段が星爆。

 星爆とは、スター爆撃投下を意味し、100人や200人の小説を無差別で閲覧(1ページだけ)。その小説にスターを投げて、「あなたの小説にスターを投げましたから、私の小説にもスターを投げ返してくださいね」という暗黙の取引を行う。

 ひどいときにはファンタジージャンルの小説1000冊に対して無差別に星爆を繰り返した経験がある。


「星爆のせいで、あるときはアンチに絡まれ、あるときは作家どうしのいざこざに巻き込まれ、めっちゃ大変だったんですよ」


 俺はコメントで、死ねだのクソだの書かれた経験がある。

 もちろんすべてを躍起になって相手に返答し、毎日のようにケンカしていた。

 自分の作品の悪いところをコメントで罵られるのは喜ばしいことだが、当時の俺は屈辱に顔を歪ませて、相手を殺してやりたいくらい憎んでいた。猛省である。


「サボルくん世渡り下手だもんね」


 レンチーさんはファンづくりがうまい。

 どの読者に対しても丁寧な対応を心掛けている。

 アンチにケンカを売っていた俺とは大違い。

 運営から見出された才能はあっという間に開花し、レンチーさんの作品は、たった1万アクセスの俺の作品を数日で抜き去っていった。


 星爆の俺、涙目。


「今後、どうすれば閲覧数が増えます? できれば簡単に!」


「絵師をつければいいんじゃない」


「絵、絵師っすか」


「えっしっしー」


 ケータイ小説における絵師とはイラストをつけることを意味する。

 全員スターでは漫画、小説のほかにイラストを描いているクリエーターがいる。

 要相談で彼らに頼めば1か月以内に自分の小説にあったキャラクターのイラストをかいてもらえる。


「俺もイラストほしぃい。レンチーさんのときみたいにイラストをほめて、ファンになって毎日スターを投げて、を1か月くらいやれば、絵師を落とせますかね」


「なんかゲスいよ」


「ちなみにレンチーさんの小説のイラストはどうしたんですか?」


「ファンの子が自発的にね。表紙にしてくださいってコメントくれた」


 この人気クリエーターめぇえええ!!!

 嫉妬する。


 レンチーさんのようなファンタジージャンルで1位をとるような小説は、ファンの子が勝手にイラストを描いて送ってくる場合がある。


 俺が女を口説くように絵師クリエーターを1か月かけて口説いた労力を、目の前の大人気クリエーターは一瞬で手に入れてしまうのだ。


 この世界は実力とコミュ力がすべてだった。


 あとエタらずに更新する生真面目さも、かな?

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