第6-5話:生と死の狭間で

 ――次の日から弐国の侵略が開始された。


 結局私たちは弐国の侵略から玖国を守るために兵を挙げざる負えなかった。会議室で軍の司令官が淡々と状況を読み上げていく。私はその言葉をどこか他人事のようにしか受け取れなかった。


「陸軍は旧C区域との境目を防衛線とし、配置完了しております。海軍は弐国の供給路を経つ為、逐次攻撃をしておりますが、戦況はあまり芳しくないようです」


 ああ、本当に戦争なんだ――。


 沢山の勲章を胸に飾った勇ましい男が、なにかしゃべっている。


「弐国側の兵力は約五万ほどであり……」


 私は疲労と眠気で頭がぼーっとしていた、男の話していることがなにひとつ入ってこない。そんな時間がどのくらい過ぎただろうか、隣に座っている一ノ宮が急に立ち上がって声を張り上げる。


 「もう充分です」


 一ノ宮が勇ましい男の話を切った。


「もう戦況は結構です。それよりもこの戦争の終わりを決めなければならない、それが最優先です」


 一ノ宮の一言で会議室は静まり返る。


「でも和平は……」

「そう、和平は失敗に終わってます。しかしこのまま戦争を続けてしまっては本当に殲滅戦になってしまいます。あのヘルマンという男はどこまで本気なのかわからない」


 私はその言葉にはっと正気に返ったような気がした。それは一ノ宮の言ったヘルマンという男の名前からくる恐怖だったのかもしれない。


 あの男はまるで狂人のようだ――。


 ちゃんと考えないと、玖国は滅んでしまうかもしれない。私は席を立って議員たちへ問いかける。


「何か、何か打開策はないでしょうか。いち早くこの戦争を終わらせないと玖国は……」


 会議室がざわつき始める。周りの議員たちは一斉に話始めたが、一向に手が上がることはなかった。


 数時間の議論を経て、決まったことは徹底防衛という当たり前の対策だけだ。私は会議室を出て、両手で頭を抱えてしまっていた。


 使えない、なんて無駄で、無能なやつらなんだ――。


 このまま戦争が長期化してしまったら、玖国に必要な人材が次々と死んでしまうだろう。 そしたら復興が難しくなってしまう。だから早く終わらせないといけないのに。


「お気持ちお察しいたします」


 一ノ宮が私に向かって一礼してきた。私と一ノ宮だけしかいない廊下を見て、私は思わず声を荒らげてしまった。


「これが貴方の言った策なの? 何も解決できていないじゃない!」

「愛様、これは私の言った策などではありません」

「なら早くそれを実行しなさいよ!」

「……まだ実行できる段階ではないです、申し訳ありません」

「なんなのよ……どうすればいいのよ」

「愛様」


 私は思わず廊下に座り込んでしまった。


「私は、このままじゃ私は……兎谷たちさえも殺してしまう」


 視界が滲んでしまう。私は顔を両手で覆うが、手の中から涙が溢れ出ていってしまうのを感じていた――。

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