第16話

そして入学式当日。

この日まで俺は母親とは必要最低限の会話しかしてこなかった。藍に限っては一言も話していない。

お互い話すだけ無駄だと、話すべきことなどないと思っているのだろうか。

今までも母親とこういう事が無かったわけではないが、いつの間にかお互い許しているというか有耶無耶になって終わるというのが

今までの喧嘩、すれ違いの結末になっている。

多分母親とはこの件も同じ結末になるだろう。そう身勝手だが確かな確信があった。

ただもう一人、藍とはどうなるか分からない。そもそもこれはどういう状態なのだろうか。別に喧嘩してるわけでもないしすれ違いでもなさそうだし。

お互い気まずくて話しづらいというだけなのだろうか。少なくとも俺はそう思ってる。

それに藍がどういう人間か分からない。

今回の件に限っていえば、俺が悪い対応をしたのかもしれないが向こうに非がないかと言えばそうではない。俺はそう思ってる。

まあ、こっちの自意識過剰で向こうは何とも思ってませんでした〜みたいなオチは結構ある。俺が中二の時、隣の席でそこそこ話す女子がいた。授業中彼女がペンを落としたので心優しい俺は拾おうとした。

ペンに向かい手を伸ばすと俺の手と彼女のペンを拾おうとした手が触れた。

気恥ずかしくなり俺は慌てて手を引っ込めた。彼女がペンを拾ってから一度もこちらを見ることはなかった。

あの時の俺はてっきり彼女は照れていたのだと思っていたがそれは間違っていた。

それに気づいたのはその日の放課後だった。俺は帰宅しようと鞄を持ち教室を出ようとした。その時俺は聞いてしまった。彼女とその友達との会話を。

「なんか〜今日、ペンを拾おうとしたら千草と手が触れたんだけど〜なんかキモかった(笑)」

「え〜ヤバ!手、洗った?」

「洗った洗った!授業中終わったらすぐ行ったもん!」

「なにそれ!ウケるんだけど!!」

ほんとにウケるな。俺。

その一連の会話を聞き俺は目から塩水が出てる事を気付かれないように早足で学校を出た。

あの女子は照れて俺と話さなくなったわけではなかった。ついでに言えば俺は女子から話しかけられたことはなく、いつも自分から話しかけていた。つまり隣の女子は嫌々俺と話してたという事実はあの時の俺は気づいてなかった。

あの時の俺は本当におめでたい奴だったな。

その事もあり今では女子には話しかけないようにしてます。

俺の黒歴史披露はこれくらいにして。

俺と藍は真新しい制服に身を包み、

両親も入学式に参列するらしく車に四人乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る