第14話
俺の部屋に藍が来てから幾分か経った。
そして話題を切り替えるように表情も切り替わった。
「茜にお願いがあるの」
藍は至極真剣な表情と声で話題を切り出した。
「俺にお願い?」
俺は訝しげな視線を送る。
「うん。私を助けてくれた茜に頼みたいの」
だから助けたんじゃないんだってと言いたくなったが飲み込んだ。
そう言われたら断れなくなる。美少女にこういうセリフを言われたら男冥利に尽きるってもんだ。
「まあ、出来るだけ力は貸すけど」
諦めるように嘆息をもらす。
「なら安心だ」
藍はほっと胸をなでおろした。
いやそんな信頼されても困るんだけどな。
期待と信頼を良い意味でも悪い意味でも裏切ることには定評のある俺にとって無条件に信頼されるということは縁遠い行為だ。
それに藍とはつい最近家族になったばかりだ。昼間の事があったとしてもだ。
お互いどういう人間か把握できていない。
その状況でも俺なんかに頼るのはよっぽど
切羽詰まった状態なのだろう。
藍は懇願するかのような声で話す。
「お姉ちゃんを助けて欲しいの」
「え?」
俺はきっと鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたと思う。それぐらい俺にとって意外な言葉だった。
あんな人当たりが良くモテそうな瑠璃さんが?いじめかなんかか?いや、ないだろう。
いじめられるような性格じゃなさそうだしな。
俺は一人でじっと考えてると声がかかった。
「お姉ちゃん、可愛くて優しいし勉強もできるから色んな人から好かれてるの」
そう言われその状況を俺は容易に想像出来た。自分でもモテるって言ってたぐらいだ。
よっぽどなんだろう。
だからこそ、か。
きっと可愛くて優しくて勉強も出来るから助けて欲しいんだ。
合ってるかは置いといて、おれは一つの結論に辿り着いた。
藍は苦しそうに顔を歪める。
「でも、裏では色々言われてるみたい。
中学でもそうだったから」
その言葉を聞き、俺はある物語が頭に浮かんだ。
ダモクレスの剣。だっけか。
王の権力と栄光に羨んだダモクレスに
王であるディオニュシオスが自分の玉座に
座らせる。
贅沢な暮らしだったが、ふと頭上を見上げると細い糸一本につながれた剣がある事に気付いた。 王の暮らしがいかに命の危険を伴うか
示したものだった、という話だったか。
瑠璃さんもきっとそういう状況だったのだろう。
目立つ人間、注目される人間には常に周囲の視線というリスクを背負っているのだろう。
瑠璃さんを好いている人の数だけ嫌う人もいる。
「だからお姉ちゃんを助けてあげて。
私じゃどうにもならなかったから…」
今にも泣きそうな声でそう告げる。
その口ぶりから過去に何かしらの対処をしたのだろう。
俺は一連の話を聞いた。
ただ藍には悪いがどうにも俺は助ける、いや手を貸す気にはなれなかった。
カーストの上位に立つという事はそれ相応の
リスクを負うべきだし負って当然だと思う。
それが嫌なら最初からカースト上位に入るべきではない。
「瑠璃さんは直接お前に。助けてと言ったのか?」
俺はそれを確認すべきだと思った。
俺の問いに藍は首を横に振る。
だろうな。数少ない会話だが瑠璃さんは誰かに助けを求めないと思った。俺は昨日の不敵で傲岸な笑みを思い出す。
「そうか。なら俺は手を貸さない」
希望を持たせないよう冷たく突き放すように
告げる。
「そう…分かった。ごめんね。 無理言って」
無理矢理に作ったような笑顔でそう言った。
ズキリと胸が痛むのが分かった。
ただここで手を貸すのは俺の流儀に反する。
そして会話は終わり藍は自分の部屋に戻った。
俺はベッドに横たわりながら時間を確認すると、針はとうに頂点を回っていた。
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