第12話

とりあえず家に上がり夕食を食べた。

義父はまだ帰ってなく俺と母親と藍さんと

瑠璃さんで食卓を囲んでいる。

食事中誰も口を開く事はない。

普段はどうでも良い話しをする母親だが、

今日は一言も喋らない。

その事実が普段と違う事を確かにする。

十中八九あの件の事だろう。

多分藍さんから一部始終聴いているはずだ。

だからその事について咎めるつもりだろう。

ただ、俺にはそんな事を言われるつもりはさらさらない。

確かに危険な橋を渡ったし、下手をすれば

今以上に怪我をしていたことだろう。

だが結果、俺も藍さんも怪我することなく

無事だった。

過程はどうあれ、その結果についてとやかく

言われる筋合いはない。例え母親でも。

俺が口を開けば追及されるだろうから、

黙々とただ食べる。

そろそろ食べ終わるという時に声を投げかけられた。

「茜、ちょっと良い?」

普段よりも刺々しい声だ。

「なに?」

「今日の事だけど…」

ほらな、やっぱりこの事か。

俺は沈黙を貫く。

「藍ちゃんから話は聞いたわ。

不良に絡まれたんだって?」

母親の追及に少し苛立ってしまった。

「…ああ」

その苛立ちを隠すように少ない言葉で返す。

「ごめんなさい。私が一緒にいれば…」

母親は先程の態度とは裏腹に申し訳なさそうに謝った。

「今回の件の責任は私にある。

けどね茜。私は少し怒ってるの」

なおも母親は続ける。

「骨折してるのにどうして不良に立ち向かったの?また怪我してたかもしれないのよ。

逃げるのも立派な自己防衛だよ」

ああ、そんな事分かっている。

「それとも…」

母親が一呼吸置き言った。


「まだあの事を気にしてるの?」


その言葉を聞き俺は古傷が、胸が痛むのを感じた。その痛みは俺を苛立たせるのに十分なトリガーになった。

「ちげえよ。そんなんじゃねえ」

感情をうまくコントロール出来ない。

母親相手についそんな口調で言ってしまった。

ただ俺自身、思い出して気持ちの良いものじゃない。早く話を切り上げるため席を立ち自分の部屋に戻った。

戻り際に見せた母親の悲しげな顔が頭から離れなかった。

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