第11話
俺は公園から立ち去り最寄りの駅に向かった。時計を確認すると大分時間が経過しておりサラリーマンの帰宅ラッシュにかち合ってしまった。
骨折して電車に乗って分かった事がある。
それは命がけだという事だ。
帰宅ラッシュという事で当然座席には座れず
立つしか無かった。
怪我してるから席譲ってくれるかな?と
思っていた時期が俺にもありました。
だが誰も譲ってくれずにこうして立って乗車している。
まあ、あれだな。現実は甘くないって事だな。
右手でつり革を掴むため荷物が持ちにくいし何より電車の揺れで隣の人に腕が当たって痛い。それに時折俺を見る、骨折してんなら電車に乗るなよ的な視線も痛い。
自分の降りる駅まで痛みを我慢しながら電車に揺られる。二区間で着くので時間もそれ程気にならなかったのが唯一の救いだろう。
そして電車に降り帰路についた。
外は既に暗く電灯の明かりだけが頼りだった。家は駅から近いとは言えず若干歩くには距離がある。
春風と呼ぶにはいささか冷たい風が俺を包む。今回の件については後悔も反省も思案もした。結論には至らなかったが。
答えが出ない問いを考えるのはゴールが設定されてないマラソンを走るようなものだ。
残酷で過酷で困難だ。
[人は考える葦である]という言葉があるが
逆に言えば考えることを放棄すれば人ですら無くなり、ただの動物未満に成り下がるという事だ。身体能力に置いては他の動物より著しく劣る人間が今日まで生き残り、食物連鎖の頂上に君臨してるのは、考えて知恵を振り絞ったからに他ならない。
だから、考える事がどんなに苦痛で残酷でも、それでも考え続けなければいけない。
それが最低限の人間のなすべき事だ。
つらつらとそんな事を考えてると我が家に着いた。俺は玄関の前で立ち尽くす。
帰宅するのが遅れたため何を言われるか分からない。家に入るのが億劫になっていると不意に玄関が開いた。
「…おかえり」
不機嫌そうな声と表情を見せる母親だ。
「ただいま」
俺は短くそう答えた。
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