第6話
夕飯を済ませ、とりあえず風呂に入った。
ギプスが濡れるといけないのでビニールを
巻き、シャワーだけに済ます。
湯船に浸かれるのもしばらく先だろう。
片手、というのもやはり不便でトイレや
食事などは一人でこなせるが、着替えだけは
どうしても手間取ってしまう。
こればっかりは慣れだろう。
人間なんだってそうだ。
「いつか」出来る日が来る。
「いつか」ちゃんとやる。
「いつか」どうにかなる。
誰しもが思っている事だろう。
だがそれは、俺の最も憎む言葉だ。
「いつか」それは明日かもしれないし明後日
かもしれない。だが、永遠に訪れないことだってある。
いつか出来るようになるよ、いつか成功するよ。このセリフは人間誰もが口に出すだろう。しかし疑問に感じる。
いつかっていつだ?
いつか出来るからそんなに頑張んなくていいのか?
そうじゃないだろう。
来るかも定かじゃない事を信じる事は、
努力を怠って良い理由にならない。
いつかを信じられない俺は傲慢かもしれない、短絡的かもしれない。明確に記されなければ信じる事が出来ない、浅ましい人間かもしれない。
それでも、
きっと人が信じて良いのは他人でもなく、奇跡でもない。自分自身だけだと思う。勝手に他人を信じて、その結果裏切られても恨んではいけない。
だから、自分自身を信じていれば良い。
そう結論付けた。
嫌な事を考えたら気持ちが沈んできた。
おっかしいな。湯船には沈んでないんだけど。ともあれ体にまとわりついた物は洗い流し終えた。着替えを済ませ、気分転換にウッドデッキに出る。春にしてはまだ幾分肌寒い風が吹いている。ただ、湿気もなく風呂上がりには心地の良い風だ。夜の闇を優しく包み込むような月明かりを浴び、少し心が浄化された気がする。 心休まる時間だ。
ただ、疲れもあってかいつもより眠気が来る時間が早い。まだ日付をまたぐ前に寝るのは
春休み中の俺の生活を考えたらあり得ない事だ。だが、今日はいつも以上に疲れた。
だから早く寝るのもわるくないだろう。
空を見上げると幽かに光る星が見える。
弱々しくも決して煌めく事をやめない。
儚くも美しい、そんな星につい見とれてしまっていた。
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