第5話

家に入り、自己紹介をした。

「えっと。千草茜です。今年中学を卒業しました。趣味はゲームと読書です。よろしくお願いします」

つい、緊張して声が裏返ってしまった。

それも仕方がないと思う。

今まで顔も知らない人と家族になるんだ。

況してや、何一つ俺は聞かされてなかった。

緊張して当然だろう。

何より、目の前に美少女が2人いるのが

一番の要因だと思う。

今まで美少女どころか女の子と話す機会なんて滅多に無かった。そんな男が美少女の前でスラスラ話せるわけがない。

「茜ったら、可愛い女の子の前で緊張して、

上手く喋れてないじゃない」

今それを突っ込まないでくれ!

なに、心読んでんの?琴浦さんかよ。

俺は否定出来なかったので曖昧な笑みを

浮かべるしかなかった。

次に件の美少女の自己紹介タイムになった。

「姉の東雲・・・じゃなくて千草瑠璃です。

今年高3です。好きな事は友達と話す事です。これからよろしくね、茜くん」

綺麗な人にいきなり声を掛けられてしまった。どう対応して良いか分からなかったのでとりあえず引きつった笑顔をした。

家族になるとは言え、初対面でこの接し方かよ・・凄えな、軽く引くわー。

美少女シスターズの姉、瑠璃さんは俺の2歳上だった。

茶色がかった長い髪ををポニーテールでまとめてある。背は俺より少し大きい。足も長くすらっとしている。

快活で人当たりが良さそうな雰囲気を放っている。多分クラスでも人気者なんだろう。

そして。

「妹の千草 らんです。

今年中学卒業しました。

好きな事は・・読書です。

よろしくお願いします」

美少女シスターズの妹、藍さんは俺と

同い年だった。

長い黒髪。

小柄で小動物系の女の子。

全体的にすらっとしているが、ある部分だけ異様に膨らんでいる。

単刀直入に言うと胸が大きい。

栄養が全部そこに言ってるんじゃないの?

って思ってしまう程のボリュームだ。

何と言うか、庇護欲をそそられてしまうと言うか、守ってあげたくなる。そんな雰囲気を

感じる。

こんな姉妹とこれから一緒に過ごすと

考えると心臓に悪い。

休息の場なのに休めないってどうなの?

俺の生活の危機を如実に感じてると

義父の紹介も終わり、とりあえず荷物を

片付けることになった。

俺の家はは一般的な一軒家と比べたら、やや大きいと思う。おまけに今まで2人で生活してたので部屋はやたらとあまっている。

俺は怪我しているが、軽い物ぐらいなら

持てるので最初は手伝ったが、入院してたからか、体が上手く動かない。

吊ってあるうでが重く、バランスも取りづらい。

人の腕は約三〜四キロあるそうだ。

普段何気なく生活していても、なんとも感じないが、人は重りを振って生活してるようなもんなのかもしれない。

手負いの俺がいても他の人の邪魔になりそうなので、

俺はキッチンに行き、とりあえずお茶の

準備をした。それぐらいなら片腕でも

出来るだろう。

っかー!俺ってばマジで出来るやつだなー、

怪我してても働くなんて。

こっそり一人悦に浸っていると二階から声がした。

「茜君ー。手伝ってー!」

この声は瑠璃さんかな?

怪我人に手伝わせるってどうなの?と

思ってしまうが、まあいい。


重い荷物とかあるのなら、男手が必要かも知れない。

しかし、この場面なら俺の方がお荷物なのではないだろうか。

階段を上り、瑠璃さんの部屋であろう場所にいった。とりあえずノックをする。

家族になったとは言え、女子の部屋に

入るなんて経験したことがない。

すると、部屋の中から声がした。

「入っていいよ」

俺はふと、疑問持った。あん?声が違くね?

心無しか自己紹介の時よりも声の温度が低い。冷たく威圧的な声だ。

俺は恐る恐るドアを開けた。

「あ、あの手伝いって・・

何ですか?」

「そんな緊張しなくていいよ。

少し話がしたかっただけだから」

「話?何のですか?」

「単刀直入に聞くよ?

私のこと、どう思った?」

いきなり何だ?

てっきり、いじめられるのかと思ったが

俺の予想は外れた。

「どう思ったかですか。会ったばっかりの人にも言うのもなんですが、綺麗な人だなと」

「それだけ?」

瑠璃さんが可愛く小首を傾げた。

しかし、態度とは裏腹に声に温度が無い。

「私ね、これでもモテるの」

いきなり爆弾発言だ!

ここまで包み隠さないのも凄いな!

少し胸を張って言い放った。

「男が鬱陶しく感じるくらいにね。

でも、君はそんな私の事をなんとも思わなかったよね?」

「いや、別に何とも思わなかったわけでも・・」

「本当に?」

「・・・・」

否定出来ない。何なら妹の方が好きなタイプだ。いやね、別に瑠璃さんが嫌いなわけでは無い。

ただクラスにいたら絶対に話かけないタイプだと感じただけだ。

「沈黙は肯定とみなすわよ。

やっぱりこういうタイプが良いわね」

瑠璃さんは一人で勝手に納得したように

頷いているが、俺は何の事かさっぱりわ

わからん。

「茜君。気に入った」

「は?何の事ですか?」

「そうね、簡単に言うと」



「君をおとしてみせる」



何言っちゃってんの?この人。


「え、えっと。

俺の事好きなんですか?」

反射的につい言ってしまった。

うわー!俺は何聞いてんだよ!

いや、でもこんな事わけわかんない事を言うんだ。少なくとも好意はあるかもしれない。

でも、

非モテだった俺が自称モテる女の子に好かれる訳がない。仮に好意があったとしても

俺は誰とも付き合うつもりは無い。

瑠璃さんとて例外ではない。

義理とは言え家族だしな。


「ちょっと良い?」

「はい」

やばい、なんて断ろう。

だが、その心配は杞憂に過ぎなかった。

「私がいつ君を好きと言った?」

え??

「別に君のことが好きだから落とす訳ではないわ」


やっべー!! 超恥ずかしい!

思い上がりも甚だし過ぎる。

何であんな事を口走ったんだ!

冷静に考えれば、モテる女が俺の事を

好きになるわけがないだろ!

俺の新たな黒歴史の誕生の瞬間だった。

俺は一週間ぐらいベッドで悶えるかもしれない。なんか瑠璃さんもちょっと笑ってるし。

咳払いして、真剣な眼差しを俺に向けた。

「私の周りに男が沢山いるけど、

やっぱり攻略難易度が高い方が燃えるよね。

私の場合は男が勝手に寄ってくるけど、

それじゃあ、つまらないし?」

さもゲームでもするかのように簡単に言った。

しかし、落とすって具体的に何するんだ?

とりあえず生じた疑問を解消するところから

始めよう。

「あの、質問いいですか?」

「なに?」

「俺になにするんですか?

危害を加えるようなら…」

「なにって、そりゃアピールよ」

「アピール?先に言ったらアピールに

なんないでしょ」

そう。先にアピールと言ったら

これからの瑠璃さんの行動が全て

アピールに見えてしまう事になる。

今から騙すと言われて騙される人間がいるだろうか? きっといない。

つまりそんなものに引っかかるわけがない。

「そうかしら?」

そう言って瑠璃さんは俺に近づいてきた。

え?なにすんの?なんか怖いんだけど。

俺の骨折してない方の右手を取り、

瑠璃さんの体へ引きつけた。

「ちょっ、あぶね」

急に引っ張るため、体を預けるように瑠璃さんの方へバランスを崩してしまった。


状況を把握するまで数秒かかった。

まず、腕に柔らかい感触が当たった。

決して大きいとは言えないが弾力があり

柔らかい。

そして自分の顔の近くに瑠璃さんの顔が

あった。

茶色がかった明るい髪からフローラルのいい匂いがする。

「これでもアピールにならないかしら?」

挑発的な声でそう問いかけてきた。

やばい、さっきから汗が滝のように出てくる。なんて答えるべきか必死に考えていると

ある事を思いついた。

しかし、これを言ったら100パーセント引かれる。いや、引かれるだけなら良い。

ひょっとしたら自転車で轢かれるかも知れない。自転車で怪我するのはまっぴらごめんだ。なんてふざけている場合じゃない。

正直、これしか思いつく手が無い。

俺は一度瑠璃さんから離れた。

「一ついいですか?」

俺は確認するように言った。

「なに?もう落ちちゃった?」

瑠璃さんは俺をからかうような笑顔で答えた。そんな笑顔も可愛いと思ったがそう

じゃ無い。

俺は深呼吸をして腹を括った。

「俺はあなたより妹さんの方が好きです!」

沈黙が生まれた。

やっぱ引かれたか?なら作戦成功だが

身内になる人間に速攻で引かれるのも心にこないでもない。

瑠璃さんがどんな反応をするか、恐る恐る確認した。

「あ、そう。それが?」

あっけらかんと言った。

「君は自分が妹の方が好きだと言えば、

解放されると思ったようだけど私に

してみれば、どうでも良いのよね」

しかも見破られてしまった。

家にエスパーが二人もいるってどういうこと? 能力開発してんの?

「ど、どうでも良い?」

「そう、どうでも良い。

だって結局私の事を好きになるんだから。

今誰が好きであろうと関係ない」

そう断言した。

それに、と何が可笑しいのかクスクスと

笑っている。

「やっぱり君は面白いね。」

「はあ、何がですか?」

俺からすれば何一つ面白くない。

結局何の解決にもならなかったし。

「さっき私になんて言ったかな?」

そう言われ、思い出す。

瑠璃さんから解放されるために

ハッタリだが、妹の藍さんの事を好きだと、告白した。

まあ、見事に作戦失敗したが。

「私の妹に告白したよね。

それが私しか聞いていないと思った?」

なに?この人おかしいの?

「いや、この場には俺と瑠璃さんしかいない

でしょ」

「君は少し頭が悪いのかな?

私は部屋にいるとは言ってないでしょ」

いきなり頭が悪いって言われたけど、それは

置いとくとしても。

部屋にいないのに誰が聞いてるって、

まさか!

俺は慌ててドアの方を見ると、

若干開いている。

誰かが開けた証拠だ。

「いつ気がついたんですか?

ドアの向こうで誰か聞いてる事を」

瑠璃さんは俺をからかうように笑った。

「そうね、私に抱きつく前ぐらいかしら?」

誰が見てたのかしらね?と

笑っているが、こっちはまるで笑えない。

母親か義父に見られるのもダメージが

でかいが、藍さんに見られる事が一番きつい。姉に抱きついた後に自分に告白する男を

どう思うか想像も難くない。

しかし後に俺の懸念は最悪の形で的中

してしまった。


とりあえず瑠璃さんとの話が終わり

自分の部屋に戻った。

机とベッドと本棚くらいしかない

簡素な部屋だ。

そこで今後の俺の生活について考えていると

今すぐに首を吊りたくなる。

傍からみれば女の子に抱きつき、

その妹に告白したようなものだ。

しかもそれを誰かに一部始終見られていた。

もう死んでいいよね?ていうか、この家で

生きていけない。

幸い瑠璃さんはこの事を秘密にしてくれるが

まだ信用できない。

それに誰かに見られたという事実は覆らない。もしもこの一連の行動を他の男がしていたら、俺は問答無用でそいつをクズ認定するし。まあ、起こってしまった事はしょうがない。この後の対処は後で考えよう。

少し気を緩めたら疲れがどっと出てきた。

窓から覗く空は薄暗くなり、夜の訪れを感じさせた。

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