鶴来空 -7日



 次の日の放課後。『超研部』の部室には、僕以外誰も居なかった。

 『超研部』は兎川先輩が去年無理に作った部活らしく、生徒会長権限のおかげで治外法権というか、部活としての体は必要とされていない。

 なので成果を出す必要もないし、日常的に活動する必要もないし、部室には私物置き放題の無法地帯なのである。

 だたそんな自由気ままな部活動は、生徒会長の兎川先輩のおかげだけって訳ではなく、姉さんや皆月先輩や西園寺先輩のおかげでもあるのだけど。何にしても、彼女たちの影響力は大きい。

 そして勿論、僕のおかげではない。僕のような傍観者には学校を動かす力はないのである。

 兎に角その日の部活はほとんど活動をしておらず、図書委員の仕事もない僕は暇を持て余していた。机に突っ伏して、右手に持った写真をずっと眺めている。


「樹村恋歌先輩、か……」


 同じ図書委員であり、クラスメイトでもある南沢みなみさわ魅々みみに協力を要請して、樹村恋歌という先輩の事を調べてもらった。

 同じ図書委員である彼女は友達が多く、その情報収集能力はかなり高いと僕は決めつけている。きっと明日にはある程度の情報を持ってきてくれるだろうし、あるいは本人を連れてきてくれるかもしれない。

 もっとも、僕が彼女の事を想い出せればそれで苦労はないんだろうけど。


「……だめだー」


 僕は両手をだらんとぶら下げる。さっきから頑張って思い出そうとしているのに、記憶の表側には一向に現れない。

 そもそも僕は、彼女に会っているのか? 接点はどこだ?

 一番在り得るのは、姉さんの紹介だろうか。当時僕は中学生な訳だし、その時から知っているこの学校の先輩なんて一人もいない。勿論姉さんを除いて、だけど。

 つまり姉さんの友達という関係性で、僕は彼女――樹村恋歌先輩に会っているはずだ。

 一体去年のいつだ? いや去年と限らないのだけど。でもここ一年くらいの間に、僕は樹村先輩に出会っている事になる。

 

「……はあ」


 結局いくら考えても答えは出ないし、昔を思い出せない以上、出来る事はない。今はただ、南沢がいい情報を持ってきてくれる事を信じるしかない。

 ただただ穏やかな時間が、『部室』を支配する。

 しかしそれは、彼女の登場によって、静かに遮られる。


「……こんにちは」

「うわっ!」


 気が付くと僕の後ろには皆月先輩が立っていた。

 後ろを振り向くと、皆月先輩はきょとんとした顔を浮かべて、小首を傾げていた。

 皆月先輩は口数こそ多くないものの、基本的には感情表現豊かだ。実際僕も皆月先輩の言葉じゃなく表情から察する事も多いし、兎川先輩に至っては表情だけで言いたい事が分かるとかなんとか。本当かよ。

 だから皆月先輩が僕の大声に対し戸惑っている事は分かった。僕は動揺して、なんて返そうかと逡巡している。すると皆月先輩は、僕が持っている写真を目ざとく見つけ、


「……これは、なに?」


 と聞いて来た。


「あ、えっとこれは……」


 さて、どうしたものか。

 この写真の事を、皆月先輩に相談しようか、しまいか。それが問題だ。

 皆月先輩なら樹村先輩の事を知っているのは間違いないし、姉さんが答えてくれなかった事にもすんなり答えてくれるかもしれない。

 ただ退部した人の事だ、多少なりとも気まずくなるのは避けられない。この二人しか居ない空間で――しかも寡黙な皆月先輩と気まずくなるのは、出来る事なら回避したい。

 僕が内心悩んでいると、皆月先輩は勝手な勘違いを始めた。 


「……隠すって事は、やましいって事?」

「いやいや、なんでそうなるんですか」


 どんだけ単純な決めつけだよ。


「……男子高校生が隠すものって言えばいやらしいものだって雨鷺が」

「ちくしょう兎川先輩の差し金か!」

「……あと玲も言ってた」

「姉さんもか!」


 あの二人、変な所で気が合うな、ちくしょう。

 皆月先輩は僕の写真が気になるのか、しきりに身体を揺らして僕の手元を覗き見ようとする。その度に僕も写真を隠して、結果二人で遊んでいるような構図になる。なんだこれ、いちゃついているみたいだ。


「……別に隠さなくてもいいのに」

「いやもし仮にいやらしい何かだったとしたら、興味津々なのおかしいでしょ。もっと恥じらうとかしてくださいよ」

「……空が何に興味があるのか、それに興味がある」

「だったら普段からもっと興味を持ってくださいよ!」


 普段あんなに、僕に興味なさそうな癖して!

 今の皆月先輩は普段とうって変わり、とても興味深そうに写真を見ようとする。

 

「そもそもこれ、いやらしいものとかじゃないですから! 普通の写真ですから!」

「……だったらなんで隠すの?」

「いや、その何というか、説明しにくいというか……」

「……やっぱり」

「何がやっぱりなんですか」


 しばらく見せたり見せなかったりの攻防戦を繰り広げていたけれど。そのうち二人とも疲れて呼吸が荒くなってくる。皆月先輩も勉強ばかりで運動はしないだろうけど、僕はそれ以上に運動しない。

 これ以上隠すのは限界だ。僕は写真を皆月先輩に見せる事にした。


「先輩、見て下さい。僕が見ていたのはこれです」

「……これって」


 写真を受け取った皆月先輩の顔が曇る。感情豊かな皆月先輩は、内心の動揺や驚きがそのまま表情として現れたようだった。

 けれど、そんな表情を、皆月先輩が浮かべるのは珍しい事だった。基本的にクールなのである。

 皆月先輩にそんな表情をさせるなんて、一体樹村先輩は何者なんだ? 

 僕は、昨日の姉さんの動揺を思い出す。二人にとって、あるいは『超研部』にとって、樹村先輩は、ただ部活を辞めた人じゃないのか?


「……これをどこで?」

「昨日、この部室で、ですよ。部屋の整理をしていた時に見つけました」

「……そう」


 皆月先輩は写真を持ったまま僕と反対側の椅子に座る。思いつめたような、でも懐かい昔を思い出しているような、そんな複雑そうな表情を浮かべる。


「皆月先輩。この写真に写っている樹村先輩って一体誰なんですか?」

「…………」

「僕も知っている人なんですか?」

「……空が知っているかどうか、それは私も知らない」


 そこで皆月先輩は話し始める。去年の、樹村先輩がこの『超研部』に居た頃の話を。


「……恋歌は私たちと同じ中学校だった。……部活を作る時、雨鷺が最初に声をかけたのが私と恋歌だった」

「じゃあ最初は西園寺先輩と姉さんは部活に居なかったんですか」

「……いや。……二人が『超研部』に入ったのは確かにその後だけど。……でもわりとすぐに入ったから」


 樹村先輩がかつての部員だったのは分かっていた話だけど、しかし樹村先輩が一番初期のメンバーだとは思っていなかったし、兎川先輩や皆月先輩と仲が良かったというのも驚きだった。

 ここで僕は、皆月先輩に樹村先輩の事を聞いたのは間違いだったのではないかと後悔する。樹村先輩と仲が良かったのならば、姉さん以上に樹村先輩の事は触れてほしくなかっただろうに。

 ……まあだからと言って、エロい物を持っているって勘違いされたままは許容できないけど。


「……写真はその時撮った。……顧問の東上先生に撮ってもらった」

「『超研部』に顧問っていたんですか」

「……形式上だけ。……その時から来てない」


 初耳だった。そっかうちの部活、顧問いたんだ。そりゃいるか、部活だもんな。

 

「……皆月先輩。それで、樹村先輩は一体、今何をしているんですか。姉さんは退部したって言ってましたけど」

「…………」


 皆月先輩は写真を見ていた顔を上げ、けれど僕の方は見ずに窓の外へと視線を向けた。その表情は、さっきまでの複雑そうな表情と違い、一言で表せる程に単純な表情だった。

 悲しいだけの、表情だった。

 一体皆月先輩は何を見ているんだろうか。視線に合わせるように、僕も窓の外を見た。そこから見えるのは、敷地内にあるだった。

 

「……恋歌はもう居ない」


 ぽつりと、皆月先輩はそう漏らした。それは退部した人間に対して言うにはあまりにも重い言葉だった。

 まるで永遠に別離したような、そんな――。


「……それってどういう意味ですか」

「……


 普段の落ちついた喋り方で、けれどどこかすっぱりと断ち切るような鋭さで、皆月先輩はそう言った。

 死んだ? 樹村先輩が?

 僕は動揺して何も喋れなくなる。皆月先輩の方をじっと見て、しかし皆月先輩は外の時計塔から目を離さない。

 時計塔に一体何があるのだろうか。

 そして皆月先輩は僕の方を見ずに続けた。




「……恋歌は、去年死んだ」







**************************************





 それ以上聞き出す事も出来ず、僕は部室を出ていった。というより、出て行ってほしいと皆月先輩に言われた。


「……色々と想い出したから」


 真剣な表情でそんな事を言われて、気にせず居座る程に僕の神経は図太くないし、それがなくとも一緒にいるのはかなり気まずい。

 聞いてはいけない事を聞いてしまった。今更ながらそんな風に反省する。

 そうだ、そもそも昨日姉さんに聞いた事だって、聞いてはいけない事だったんだ。姉さんだって話しにくそうだったのに、それを気にも留めずまた余計な事をしてしまった。

 

「はあ」


 思わずため息がこぼれる。

 しかし反省した所で動き出したものは止めようがない。具体的には、既に南沢に調査を依頼しているのを止めようがない。

 今日の放課後にでも話を聞く予定だったが、何でも南沢に用事があって時間が遅くなるとの事なので、ついでに喫茶店で話をしようという事になった。

 そんな訳で、学校の傍の喫茶店、『ヤマネコカフェ』に僕は来ていた。店名から猫カフェのように思えるけれどそんな事はなくて、本好きの店長が『注文の多い料理店』に出てくる『山猫軒』から命名したそうだ。正直、縁起でもないと思う。

 やっぱり店名が悪いのか客はそんなにおらず、人目を憚る際にはピッタリの隠れ家的喫茶店なのである。姉さんお気に入り。


「すみません、アイスコーヒーひとつ」

「かしこまりました」


 適当に注文しながら、僕は南沢を待つ。店内は予想通り客が少なく、僕の他には会社帰りのサラリーマンや、私服の男がちらほらいるくらいである。採算は取れているのだろうか。

 時計を見ると、時刻は六時一分前。南沢と待ち合わせしている時間は六時なので、そろそろだろう。僕は時計をじっと凝視して、六時になるのを待つ。

 五十五秒。五十六秒。五十七秒。五十八秒。五十九秒。六十秒。

 秒針がてっぺんを向いたその時、カランコロンという音が店に響いた。


「や、鶴来」

「よぉ、南沢」


 六時ぴったりに南沢は喫茶店に現れた。

 南沢は時間にかなり正確で、待ち合わせをすればその時間ぴったりに現れる。それどころか毎朝の登校だってHRが始まるまさにその時に教室に現れるのだから驚きだ。最早超能力の一種ではないかと僕は思っている。


「いやー、悪いねこんな時間に集合で」

「気にしてないよ」

「しかし外は暑いね。鶴来も長袖止めて半袖にすればいいのに。いっつも長袖じゃん」

「宗教上の理由で、半袖禁止なんだよ」

「それどんな宗教? ロシアにでもあるの?」


 席についた南沢は、店員さんにアイスティーを注文する。

 アイスティーが来るのをしばらく待ってから、南沢は本題を切り出した。


「えっとさ、鶴来。まず報告が遅れて申し訳ないんだけど」

「報告? 遅れるって、今日報告する予定だったじゃないか。むしろ早いくらいだよ」

「いやまあ、報告っていうか、隠してたって言うか…………」

「隠してた?」

「ごめん、鶴来、


 その言葉は強いショックを僕に与えたが、意外とその言葉はすんなり腑に落ちた。そもそも自分の学校の学生が死ぬような事件があったら、普通大なり小なりその事を聞いていてもおかしくないはずだ。先輩から話を聞くだろうし、友達から伝わる事だってある。

 僕の耳に入らなかったのは、友達が少ないからだろうか。……言ってて悲しくなるが、もうそれは諦めている。あんなにも個性的な人間が勢ぞろいしている部活の一員ってだけで、クラスメイトからは遠巻きに見られているのだ。まったくひどい勘違いだ。

 僕の周りの人間が凄いってだけで、僕は普通の高校生だというのに。

 普通どころか、非力なただの傍観者でしかないというのに。

 それはともかく。 


「でもさ、なんで言ってくれなかったのさ今まで」

「その、『超研部』の人って知らなくてさ。去年死んだ先輩がいたってくらい。それに何というか、あんまりみんなその事を話したがらないんだよね」

「話したがらない?」

「そうそう」


 南沢は一旦アイスティーのストローに口をつけ、中身を一気に吸い上げる。豪快な飲み方だ。


「樹村先輩の件は去年の事だったからさ。先輩たちに聞いたら、大概の人が大なり小なり知っていたよ。ただ皆喋りたがらないんだよ。緘口令が敷かれてるんじゃないかってくらい」

「って事は、よっぽどショッキングな出来事だったって事か」

「そうそう。実際問題、鶴来はどこまで知っているのさ。その、樹村先輩について」

「去年まで『超研部』に所属していて、去年死んだって事くらい」


 正直、あまり話を聞こうという気にはなれなかった。それどころか僕は、南沢にこんな相談をした事を後悔しているくらいなんだから。

 ただだからと言って、ここで南沢から話を聞かずにさよならするのも失礼だろう。せっかく調べてくれたのだから、話を聞くだけ聞いた方がいいはずだ。

 そんな僕の心境なぞ素知らぬ顔で、南沢は調べた事を報告してくれた。


「実際、そんなに大した情報は手に入らなかったよ。とりあえず調べられた範囲で話すけど」

「それで充分だよ。ありがとう、南沢」

「まだお礼を言うのは早いって。えっとそれで、樹村先輩だけどさ。去年死んだのは間違いないよ。それで死因だけど――だったって」

「え?」


 自殺?

 僕はもう一度、写真の中の樹村先輩の顔を思い浮かべる。楽しそうな笑顔で、ピースサインを両手でやっていた先輩。今という人生がとても輝いていそうで、楽しそうで、まさに主役と呼べるような華々しさを感じる先輩。

 写真でしか知らないけど、とても自殺しそうな人間には思えなかった。いや、それは勝手な思い込みか。誰だって悩みを抱えて生きているのだから、外側を見て勝手に幸福を推量するのも失礼極まりない。

 

「自殺、か……」


 昨日の姉さんのあの表情の理由がようやく分かった気がした。あの時の姉さんの表情は、友達が病気とかで死んでしまったとか、そういう時の表情とは違うと思ったんだ。


「自殺したのは、去年の今頃、六月二十日。時計塔から夜の内に飛び降りたらしいよ」

「時計塔って、うちの学校の?」

「そう。次の日の朝に倒れているのを発見されたんだって。ニュースとかにはならなかったから私たちは知らなかったけどさ。まあ学校としても話したがらない情報ではあるし」

「……そっか、時計塔か」


 兎川先輩が樹村先輩の話をする時に窓の外を見ていたのは。きっと時計塔を見て思いを巡らしていたから。

 昔を思い出していたから。


「それで、樹村先輩の件で噂話があってさ」

「噂?」

「あー、その、なんていうかさ。樹村先輩の自殺の原因について色々と言ってる人がいたりするのよ」

「それってどんなだよ」

「あー、うん。まあ色々となんだけどさ」

「随分と歯切れが悪いじゃないか」

「まあ言いにくい事なんだよね、うん」

「別に気にしないって。もうここまで聞いちまったんだから、最後まで話せよ。樹村先輩はなんで自殺したんだ?」

「……自殺したその理由は、結局分からなかったよ。けどさ、その理由に関して、って噂があって」

「……それってつまり。姉さんか先輩たちの誰かが、樹村先輩の自殺の原因になったってことか?」


 いや、それだけじゃないかもしれない。

 もっと最悪のパターンは。


「……誰かが、って事か?」

「……別にそこまでは、誰も言ってなかったけどさ」


 そこで南沢はアイスティーをぐいっと飲んだ。喋りすぎで、あるいは緊張で喉が渇いたのだろうか。

 アイスティーを置いて、南沢はさっきまでの迷った顔つきから覚悟を決めたような表情をする。


「けどまあ、そう思っている人もいるみたいだった。もっとひどい人だと、樹村先輩は自殺じゃなくてだって言う人もいたよ」

「…………」

「そんな事はないけどさ。警察だって自殺と断定したらしいし」

「けど、誰かが原因を作った、のかもしれないんだ」


 姉さん、兎川先輩、西園寺先輩、皆月先輩。

 あの写真に写っていた誰かが、樹村先輩の自殺の原因を作った?



 部活の誰かが、樹村先輩を殺した?



「……鶴来の考えている事、当てよっか」

「…………」

「この事件の事、もっと調べようと思っているでしょ」

「……まあな」

「いいの? 私が言うのもなんだけどさ。これ以上首突っ込んでもしょうがないと思うんだよ」

「どういう意味さ」

「だって、去年の話を調べた所で、あっと驚く新事実が出てくるとは思えないし。それに調べてさ。もし部活の人が樹村先輩の自殺に関与していたって事が事実だったとしたら」


 どうするの?

 南沢は窘めるような口調でそう言った。

 確かに、調べてもしょうがないのは事実だ。何かが分かるでも無いし、それに分かった所でその真実は多分禄でもない。

 それに、事実人が死んでいて。それから一年経って、ようやく皆それを忘れる事が出来ているのかもしれない。それをほじくり返して、誰が喜ぶんだろうか。古傷をえぐるような行為はきっと誰だって幸せになれないし、悲しむだけだ。

 だけど、それでも。


「それでも僕は、調べるよ」

「……なんで? 樹村先輩の事は知らないんでしょ?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

 

 確かに僕は忘れてしまったけれど、それでも樹村先輩と僕は知り合いだったかもしれない。

 勿論僕だって、それだけでわざわざ調べようとはしないだろう。だから理由は他にもあって。


「南沢。僕はそれでもやっぱり、知る必要があると思うんだよ」

「それは、『超研部』の一員として?」

「うん。それを知っておかないと、僕は今までみたいには先輩たちと話せないと思うし。それにやっぱり先輩たちがそんな事をするとも思えないしさ。『超研部』の人間が不当に疑われているんなら、そんな悪評を晴らしたいと思うんだよ」

「……そっか。そういう事なら、協力させてもらうよ」


 そこで南沢は、残っていたアイスティーをぐいっと飲み干した。


「私に出来る事があったら何でも言ってよ。私、交友関係広いからさ。鶴来と違って」

「最後の言葉は余計だ」

「じゃあ友達多いの?」

「おいおい、南沢。何を言っているんだ。友達の友達は友達だろ? つまりお前の友達も俺の友達に入るんだ。これで友達いっぱいになった」

「私の友達を頼りにしないで。大体私の友達って女の子多いんだけど、大丈夫なの?」

「お前と姉さんで女性耐性はばっちり」

「自分の姉を女の子にカテゴライズしないで」


 僕達はそうやって、他愛もない話を始めた。さっきまでの悲しい話を忘れるように。

 その後も他愛も無い話を続けて、僕達は喫茶店を出た。会計は僕が持った。

 

「『超研部』の人達の無実を証明しなくちゃだね!」


 店先で南沢はそんな事を言ってくれた。僕は力強く頷いたけれど、内心は違う事を考えていた。

 正直、僕は先輩たちや姉さんが本当に無実だと信じている訳ではない。可能性としては、むしろ噂が正しいのではと思っているくらいだ。

 だからこそ、確認したかったのだ。

 傍観者として、真実が知りたかった。

 南沢は僕の隣で、純粋そうに笑う。そんな彼女に、僕が今考えている事を知られたくはないなと、なんとなくそう思った。









 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る