アイドル
先日雪がジェシカちゃんと撮影していたオフショットが何故か横流しされていたらしく、ジェシカ=マキノの隣にいる可愛い子は誰だ。と有名になってしまった。
勿論雪は別に自分が有名になったところで全く気にしない。
俺達の悩みはこの問題が父さんと母さんの仕事に悪い影響を与えないかどうかだけだ。
「ひろちゃん、最近雪ね知らない人に後つけられてるの」
夕飯の時に雪が珍しく弱音を吐いた。俺も先日磯崎の身代わりで呼び出された時にたまたま雪を見たが、麻衣ちゃんが時々ああやってボディーガードをしてくれていたのだろう。
なんて優しい親友なんだ。今度麻衣ちゃんにあったら田畑の写真を沢山プレゼントしてあげようと思う。
「知らない奴は年上なのか? 男か? 女か?」
「わかんない……雪が振り向くと隠れちゃうから顔は見たことないんだけど、雪が走ると走る音がするし、ゆっくり歩くとまたゆっくり歩いて気持ち悪いの」
それはもはやストーカーではないか。相手が男であれ女であれ早く何とか的を絞りたいところだ。
「今度から、俺が帰り迎えに行こうか?」
とりあえずほとほりが冷めるまで。そう言おうとしたのだが、俺がS女に行く事で雪の表情は一気に明るくなった。
「ひろちゃん、雪の学校に来てくれるの!?」
「まあ、だってよくわかんねえ奴につけられてるんだろ? ジェシカちゃんのファンに雪が刺される可能性だってあるし」
「ジェシカちゃんは、そういうの気にしないように言ってたんだけど、日に日にその足音が近くなって怖いの」
そりゃあ誰だって付け回されたら怖いだろう。それに、そいつが本当にただ付け回しているだけなのか、いつか雪を襲おうとしているのか確かめないといけない。
「とりあえず、2ヶ月くらい目処に帰り迎えに行くよ。俺がいても付きまとうなら対処しようがあるし」
「わあい! ひろちゃんと帰れる!」
雪は付きまとわれている事に対する不安よりも、俺が迎えに来てくれる喜びで顔を綻ばせていた。……そんなに喜ぶことか?
──────
そして俺は公言通り雪を迎えに行った。流石に完全女子中なので中まで入る事は出来ない。
まだ雪は携帯をまだ持たされていないので、約束の時間に来てもらうしか方法は無かった。
そして厄介な事に俺の方が授業が遅く、学校から出るのが遅い。
そこから反対方向のS女まで約1時間。まあ、雪には親友の麻衣ちゃんがいるし、彼女の部活練習を見学して時間を潰すと言っていたので大丈夫だろう。
「まずいな、やっぱり俺の方が遅い……5時って言ったけど雪は大丈夫だろうか」
夏場の太陽が長い時期であれば心配もないが、秋口になると日も短く暗くなるのも早い。
急いで待ち合わせポイントまで向かうが、そこに雪の姿は無かった。
「……あれ、俺の方が早くついちまったか」
「あのぉ〜、櫻田さんの関係者ですか?」
俺はふと可愛い声に話しかけられて振り返った。そこには雪と同じ歳くらいの子が3人グループで立っていた。
「ああ、なんか雪が変な奴に付きまとわれているって聞いて、今日から暫く迎えに行こうかと」
「それなら大丈夫ですよ、麻衣ちゃんと先に帰りましたので。お兄さんもお帰りください」
「……変だな。麻衣ちゃんは今日部活でもう少し遅いはず。そしてまだ名乗っていない俺が兄だって何故分かったんだい?」
「うっ……」
3人の女の子は互いに顔を見合わせた。何かバツが悪かったのだろう、ヒソヒソ話し合いまで始めている。
とりあえず俺は雪に付きまとう存在が男では無かった事にほっとした。
「わ、私達……田畑麻衣様ファンクラブなんですぅ……」
頬を赤らめてそう話すリーダーの少女は本気で恋をしているようだった。
どうやら彼女達の話を聞くと、ジェシカちゃんのせいでますます有名になった雪が目障りだったらしい。
雪本人はそれをひけらかすことは無くても、変な男に付きまとわれて、それのせいで彼女らが崇拝している麻衣ちゃんまでも雪に取られた。それが許せなかったらしい。
因みに変な男というのは新聞記者らしく、彼女達が新聞部達を使ってどっかの3流雑誌会社に雪の存在と名前を非公開で売りつけたのが原因だ。
最近の雪はジェシカちゃんと絡んでいる訳では無いので、彼らもプロなのにちっとも仕事にならないだろう。これは同情しかない……
「でもな、いくら君たちが雪の事を目障りだと思っても勝手に個人情報を売りつけるのは良くない事だと思うよ」
「はい……すみません。麻衣様があまりにも櫻田さんにしか行かないのが悔しくて」
「我々には麻衣様しかいないんです。櫻田さんにはお兄さんが居ますよね!? もう独占するのは止めて貰えませんか!」
いや、雪に俺が居ますよねと言われても返答に困る。そもそも俺は兄であり雪の彼氏とは違う。また堂々巡りになりそうな瞬間、俺は後ろから何者かに抱きつかれた。
「ひろちゃん! やっぱり来てくれたぁ〜!」
「う、わっ。ゆ、雪!?」
「えへへ。今日からひろちゃんと一緒に帰れる嬉しいなぁ〜」
「……あなた達、どうしたの?」
俺に抱きついた雪と3歩くらい後ろからついてきた麻衣ちゃん。田畑麻衣様ファンクラブの女子達は首を高速で振ると麻衣ちゃんに頭を下げて一目散に去っていった。
「……しっかし、麻衣ちゃんは人気者なんだな。あの子達麻衣ちゃんのファンクラブらしいよ」
「そりゃそうだよ。麻衣ちゃんは強くてカッコよくて美人で優しいのだ! 雪のアイドルだよ」
「……そして雪。いつまで俺の体に抱きついてるんだよ」
「えっと、さっきの子達がひろちゃんを取ろうとしているのかと思って。違う?」
俺が本当に待ち合わせ場所にいた事で麻衣ちゃんは自宅方面へ帰って行った。最後の最後まで優しい雪の親友には感謝しかない。
俺は抱きついた雪を剥がしてその日は普通に並んで帰った。まさかプロのカメラマンに付きまとわれているとも知らずに……。
数日後。俺は家のポストに雪と俺が並んで歩く写真が大量に入っているのを見て驚いた。そして封筒の中にあった手紙には、
『ジェシカ=マキノのお友達は実の兄とイケナイ関係』
とまで記載されていた。俺の顔にはモザイクされたまだ未公開(?)の新聞まで出来上がっていた。
そもそも実の兄って記載されたら雪の顔を出した時点で知り合いには100パーセントバレる。
流石にこんなものを本当に販売されたら俺の大学入試にまで差し支えるし勘弁して欲しい。
付きまとう存在が危険ではない事が分かったので、俺が雪を迎えに行くのはこの1回であっさり終了となった。
まあ、不貞腐れると思った雪が思いがけないカメラマンからのプレゼント写真と新聞?に喜んでいたからいいか。
あれはボツ新聞として世に出回りませんように……。
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