温泉旅行なのにほっこり出来ません!その1


 雪と俺は牧野教授に、いつもジェシカとマリアを見てくれるお礼という事で冬休みを利用して温泉旅行へ誘われた。

 丁度牧野教授も学会に行った後だから都合がいいんだって。俺は牧野先生から色々話が聞けると思いかなり喜んでいた。


「ハイ、ヒロキ。ジェシカの浴衣はどうですか?」


 最近のジェシカちゃんはお仕事の方が忙しいみたいで、あまり学校には行けてないらしい。

 単位も足りないそうだが、元々彼女は日本で学校を卒業する事に対してあまり意味を感じていないようで、義務教育等も気にしてないみたいだ。

 よく考えたら今は通信教育が盛んなんだから、彼女みたいな有名人はそっちで十分なんだよな。


「ひろちゃん見て見て、雪も浴衣着たよ。可愛い?」


 ジェシカちゃんは紺色を基調にしたシックな浴衣で、雪は薄いピンクとベージュだった。

 俺と教授は甚平のような簡易的な室内にあるものを使う事にしていたのでまだ着替えてはいない。

 女の子はとにかくこういう場所でレンタル出来る浴衣が好きらしい。

 あれをいちいち脱いだり着たりするの大変なんじゃないかな?と思うけど。


「はいはい、2人とも可愛いよ、可愛い」


「oh......なんか、ヒロキ冷たいです」


「ぶー。もっと気持ち込めて可愛いって言ってよぉ〜」


 そうは言われても、ジェシカちゃんの少しはだけた胸元が気になって仕方ない!

 ハーフさんだからなのか、ジェシカちゃんは日本人と違って色々と発育がいい。

 確か、前に家で会った時はこんなに胸を強調する感じではなかったはず。

 俺が視線をずらしたのに気がついたのか、ジェシカちゃんはニヤリと人の悪い笑みを浮かべていた。


「んふふ、ヒロキったら男の子ですね! ジェシカ、いっぱい勉強してます!」


「ずるいよジェシカちゃんばっかり発育良くて……何で雪はおっぱ……」


「ユキチャン! 今はその話ノーノー! 今晩はいっぱい時間あります、その時にレクチャーしましょ」


「はい! ジェシカ先生。よろしくお願いします」


 雪とジェシカちゃんはすっかり仲良しだ。何とも2人の間しか分からない話をした後、借りた浴衣の色に満足したのか、残りのチェックインを終えると自分達の部屋にさっさと行ってしまった。


「妹さんと一緒の部屋だと倫理的に問題がありそうだったので、彼女はジェシカと一緒にさせて貰ったけど、それで良かったかな?」


「はい。もちろんです。すいません……俺達の分の部屋まで……」


「何を言うんだ。君はジェシカとマリアの面倒をいつも見てくれているじゃないか。こちらとしても大変助かっているんだよ」


 牧野教授には全く頭が上がらなかった。俺の両親はとにかく仕事人間なので、俺達がそこそこ自立している今は殆ど放置状態だ。

 ただ、別にそれが嫌な訳では無い。

 現に俺が進路希望の際に薬剤師を目指したいので薬科系の大学に行きたいと両親に告げた事で、さらに2人の仕事が増えてしまったのだ。

 嫌な顔ひとつせず、俺の夢を応援してくれる親には本当に頭が上がらない。


 そんな中で牧野教授はこうして俺達兄妹を温泉旅行に連れて行ってくれ、しかも俺は一人部屋でゆっくりさせてくれるなんて。

 実の親でもないのに、教授には感謝しかない。俺も将来の夢を叶えたら是非牧野教授の下で働きたいと思う。


 チェックインを終えた牧野教授から俺はルームキーを受け取り簡単な説明を聞く。

 もし部屋の中に鍵を忘れてしまった時は受付に連絡する事。

 あとは教授の部屋番号、ジェシカちゃんと雪の相部屋の番号と自分の部屋番号をメモしてから必要最低限の荷物を部屋まで運んだ。


「うわあ……すごい、部屋にお風呂がついてる」


 俺は憧れの一人部屋にも喜んだが、まさか部屋の中に小さな露天風呂がある事にも驚いた。勿論後で大浴場にも行くつもりだが、部屋のお風呂も雅で使ってみたいと思う。


 俺が部屋の露天風呂に手を入れて温度を確認していると、俺の部屋のドアがノックされた。

 確かルームキーが無いと入れないらしいから、気づいたらこっちで開けるしか無いのか。


「ハイ、ヒロキ」


「うわあっ!? ジ、ジェシカちゃん!? あれ、雪は……」


 てっきり2人で行動していると思っていた俺は思わず入ってきたジェシカちゃんの背後を確認した。


「夕飯まで雪は売店に行ってます。お土産、見たい言ってました」


 お土産なんて今日買っても仕方ないんじゃないか? それに雪がそんなにお金を持っているなんて──?


「ま、まさかジェシカちゃん……雪にお金渡したりしてないよな?」


「以前、ユキチャンとプライベート写真撮りました。でも、雑誌にクリップされてしまいましたので、しっかりお仕事として報酬支払いしてます!」


「そうなんだ……なんか、申し訳ない」


「いえ、アノ写真。とてもユキチャン可愛いね、ジェシカも大好き。だから、ヒロキもユキチャンの可愛い知った方がいいです」


 雪の可愛いを知った方がいいと言われても困る。

 昔から一緒に生活しているので見慣れていると言えば見慣れているし、別に真新しい何かがある訳でもない。


「ユキチャンとヒロキが変わる為に、ジェシカ人肌脱ぎます」


「はい?」


「ヒロキがリードしないとダメです。レディは待っているのですから!」


 ジェシカちゃんが何を言っているのかさっぱり分からない。


 しかしこのジェシカちゃんレクチャーがとんでもない温泉旅行の始まりになった……。

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