ゲームはほどほどに
「ひろちゃん! ユキね、友達からゲーム借りたの。やってもいい?」
「いいよ。あー……でもテレビにゲーム機繋がないとできないから、ちょっと待ってろ」
「はーい」
雪音の友人にテレビゲームが好きな子がいるらしい。
俺はリアルの車が好きだったから、テレビゲームにはあまり興味なかった。
2年前に、確かお祭りの景品で当たったゲーム機本体が新品同然のまま部屋の片隅に置いてある。こんな機会でも無ければそのままお蔵入りになっていたかも知れない。
2人で箱の開封式を行い、説明書を見ながらコンセントをテレビに繋いでいく。
地味な作業をわくわくしながら見つめている雪音。そんなに楽しみなのか?
「わーい。ありがとうひろちゃん!」
「しかし……これは女の子がやるゲームかねえ」
雪音が借りてきたのは、とある捜査官の主人公が、街に突然出現したゾンビを銃やナイフで倒していくというゲームだった。
箱にはばっちりR15と記載されており、想像通りの残酷な描写が含まれていた。
主人公が時々ゾンビにがじがじされている姿や、本気の悲鳴は昼間でも怖い。
しかも、アクションゲームのセンスが皆無な雪音はスタートして僅か2分でゲームオーバーの洗礼を受けていた。
2時間程絶叫しながらプレイしていた雪音だが結局ほとんどストーリーが進んだ様子はなかった。こればかりはセンスの問題だから仕方がないだろう。
「よし、今日はここまで。もうやめよう?」
「うぅ……クリアできなかった」
あまり長時間のゲームは目にも良くない。俺は強制的に電源を切り、雪音にゲームソフトを手渡す。
────────
──その夜。
俺は生暖かい空気のせいか、いつもより寝苦しい思いをしていた。
まさかゲームとは言えゾンビ退治なんてしてたから……これが金縛りって奴か!?
「うーん……」
普段は夜中に目が覚めることなどない。だが金縛りであれば話は別だ。
軽く身じろぎすると、狭いパイプベッドの中で何かが動いている。
(何かいる……)
ゆっくりと手を左側に動かすと何か柔らかいものに触れた。更に布団の中をまさぐると、むにゅっとしたものが当たる。
過ぎった嫌な予感に、俺は恐る恐る自分の布団をめくった。すると、俺の身体に抱き着いている雪音が幸せそうに眠っている。
「はぁ!? いてっ」
上体を起こした瞬間、俺の頭は天井に激突した。
そんな俺の動揺にまだ気づかないのか、隣ですやすや眠っている雪音がころんと小さく寝返りをした。
何、何が起きた。
俺、何もしてないよな?
慌てて自分と雪音のパジャマを確認するが、お互い服は脱いでない。ナニかした感覚もない。だ、大丈夫……焦るな俺。
頭の中は完全に混乱していた。俺は勉強机の上で両手を組み頭を抱えた。
いきなり布団に入っていた雪音に気が付かない自分も自分だが、可愛い寝顔を見てしっかり反応している自分の半身を諫めるのも情けない。
……まさか、妹相手に欲情してしまうなんて……こんな恥ずかしい事、絶対に言えない。
「んー……ひろちゃーん……」
ベッドの上から小さく俺を呼ぶ声。突然姿が見えなくて不安になったのか、小さくすすり泣く声が聞こえてくる。
慌てて布団をかぶっている雪音の頭を撫でた。
「どうした? 雪音」
「ひろちゃん、怖いよ……ゾンビが襲ってくる……」
俺が隣にないと安心できないのか……。
しょうがねえなと、小さなため息をつき、布団をまくって再び雪音の隣におさまる。
頭をぽんぽん叩くと安心したのか、雪音はすぐに泣き止み、えへっと満面の笑顔を見せた。
「──怖いゲームなんて借りてくるからだろ。早く友達に返してこいよ」
「うん。ひろちゃんは寝ないの?」
「あのなぁ……」
上目遣いのきょとんとした瞳に見つめられる。年頃の男女が2人で1つの布団。──当たり前だが、俺だって男だ。こんなシチュエーションで寝られるわけがない。
もしも2人の手足が密着しないくらい、ベッドが広かったら眠れただろう。
通っている高校にいる女子より断然可愛く成長してしまった雪音と、これからも一緒に寝てしまったら──いつか間違いを起こしそうで怖い。
枕元の小さな目覚まし時計に視線を落とすと、まだ時刻は朝の4時だった。
くそっ……まだ3時間以上寝れるじゃないか……。
「雪音、俺は下で寝──」
すーすーと気持ちよさそうな寝息。
雪音は俺の胸元に両手でしがみつきながら、本当に幸せそうに眠っている。
ちくしょう、こんな寝顔を見たら起こすのもかわいそうじゃないか。
観念した俺は大きなため息をついた。
──もう朝まで一睡もできない。
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