12th try:Sister
「おねえちゃんから離れろっ! この変態ッ!」
唐突にぶつけられる罵声。と同時に、小さな影が背後から俺に襲いかかる。
虚をついた、完全な死角からの不意打ち――
を、俺はあっさりと避ける。
「んにゃっ!?」
まさか身をかわされるとは思っていなかったのか、そいつは勢いあまってつんのめり、商品棚へ頭からつっこんだ。どんがらがっしゃんという盛大な物音と共に店内が揺れ、積もったほこりがあたりにもうもうと立ち込める。
「ナナ!」
ミミが叫び、崩れた棚へと駆け寄った。
「げっほ、ごほっ、あててててて……」
頭をさすりながら起き上がったその少女は、どうやらミミの妹らしい。なるほど、確かによく似ている。栗色の髪に、黒目がちの大きな目。ただその肌は小麦色に日焼けしていて、痛みで涙目になっているその顔立ちは、ミミよりもだいぶ幼い。
「もう! お客さんになんてことするの!」
腰に手をあててしかりつけるミミを、にらみ返すその目つきも、おっとりとした姉とはだいぶ違うようだ。
「お姉ちゃんこそ! 知らない男の言葉にホイホイ乗っかったらダメって、いつもいつも言ってるでしょっ!」
「もー、なんてこと言うの! この人はね、異世界から【黄昏の魔王】を倒すために召喚された勇者様なんだから! 凄い人なのっ!」
……変な感じだ。
勇者なんてなりたくてなったわけじゃないし、隙あらば使命なんてほっぽりだして逃げる気満々なんだけど……。かわいい子からこうやって持ち上げられると、わりと悪くない気分になってくる。
うへへへへ。もっと言って。
だが、それを聞いたナナの目が、スッと細くなった。
「……………そもそもそれ、本当なの?」
彼女は立ち上がり、それから俺の身体を上から下までじろじろと眺める。
「こんな潰れかけの店にやってきて、いきなり自分が伝説の勇者様ですだなんて、そんなことある? シュウっていう勇者が召喚されたことはみんな知ってるしさあ。な~んか嘘くさいんだよね?」
「で、でもほら、実際に見ない顔だし、服だって私たちと違うし」
「他の街から来たのかもよ。それとも魔王のスパイかも? 服なんてやろうと思えばいくらでも偽装できるじゃない」
「……うーん……でも……」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
俺は慌ててふたりを止めた。
……そこで気付く。
そういえば俺、自分の身分を証明できるようなもの、何も持ってないぞ……?
王様は話すだけ話して金も装備もくれなかったし、俺は俺で、“道”の制限のせいで誰かと会うこともないだろうと思ってたから、気にしていなかった。
この状況、ひょっとしてマズい?
「不意打ちが避けられたのは意外だったけど、なんか見た目もひょろっちいし、年だってウチと同じくらいじゃん。これが伝説の勇者様って言われても、信じられないんだよね」
「いや、いやいやホントだってば! 俺は2017年の日本からやってきた――」
言い返したくても言い返せない。
不意打ちを避けられたのも、実はさっき一回それで死んだからだ。
同じ会話を繰り返すの、地味に面倒くさかった。
「というわけで、詐欺師くん?」
びしりと俺を指さし、ナナは俺に向かって宣言する。
「おねえちゃんは騙せても、ウチの目はごまかせない。バンガスにはそう報告することね」
「…………………………………………………………はい?」
バンガス。
って、誰?
だが目の前の少女は俺の混乱などおかまいなしに、腰を落として構えをとる。
「トボけたって無駄よ! どうせあいつに雇われたんでしょ? おねえちゃんをさらってどうするつもりだったのか知らないけれど、ウチがいる限り、この店とおねえちゃんには手を出させないんだから!」
「ちょっ、ちが――」
「待ってナナ! せめて話を聞いてからでも――」
俺とミミが言い終わらないうちに、彼女は問答無用で突っ込んできた!
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