三枚目.人魚


「なに、これ。」


見れば見るほど綺麗な石だ。その小さな石は8割が青く透明であった。まるで深い海の色のような。


「人魚の石なのっ。お薬に使えるでしょっ?」


「人魚の石…?」


はなちゃんはモフモフの丸い尻尾をぷるぷるさせながら欠伸をした。


「あれ、知らない?」


「なにを?」


「ここの森には人魚がいるんだよっ。」



はい?



森に人魚がいる。

そんなフレーズどこで聞けようか。アニメでもドラマでもなかなか聞かない。

かほるは目を丸くして固まった。


「な、何を言ってるのはなちゃん…」


「え?だから人魚がいるんだって!ザッバーンって!」


小さく短いモフモフな手をめいいっぱい広げて、ザッバーン!と表現した。

そんな事言われても、頭に入ってくるわけがない。

人魚なんて絵本でしか聞いたことがないし、ましてや森の中にいるなんて。


「あっ、もう晩御飯の時間だ。わたし行くね!じゃあ雫先生によろしく!」


そういってはなちゃんはぴょんぴょんと行ってしまい、かほるは一人木漏れ日の下、お大事にも、またねも言えず、口が半開きになっていた。





「今日の晩ご飯はカレーよー!パンカパカパーン!」


コトンとカレーが置かれるとふわふわと香ばしくスパイシーな湯気が顔に広がってきた。


「わぁー!美味しそうですね!」


「美味しいに決まってるじゃないっ。私が作ったのよ?」


雫は自慢げに鼻をふふんっとならしてみせる。雫はエプロンを外し、二人向かい合わせで座わり、手を合わせる。

かほるの頭の中はカレーの香りと、はなちゃんから頂いたお代のあの深く、綺麗な青がぐるぐると混ざりあっていた。

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