二枚目.お代


患者さんに薬を渡す時はまず森の入口で名前を大きな声で呼ぶこと。神楽之森は神聖な場所だそうで、簡単には踏み入ってはいけないそう。ただ、薬屋だけは動物と合意ならば入っていいらしい。だから患者さんの名前を呼ぶのだそう。


「はーなーちゃーん、お薬できたよー」


夕方になろうかとしてるのにまだまだ空は青い。

かほるは森の奥まで声が届くように声を張った。


「かほるちゃん??はいってー!」


人っ子一人いない森から返事がくる。

かほるはまっすぐ森の中へ入っていった。木々が陽の光を遮ってくれてとても涼しい。耳をすませば滝の音も聞こえる。


「かほるちゃんー、ここよー。」


ふと聞こえた声は足元からだった。目を下にやると、木によっかかって座っている白ウサギがいた。

動物の声が聞けるのも、薬屋の特権だ。


「はなちゃんっ。お待たせしました、お薬です。」


「待ってたよぉ。困ってたんだぁー。」


はなちゃんは耳を垂らして安心した顔を見せた。

かほるがゆっくりはなちゃんの足をみる。


「これは派手に…。」


「いやぁ…仲間と追いかけっこしてたら何かで擦ったみたいで。気づいたらこんなことになってて…。」


「もぉー、気をつけてよ。雫先生も心配してたんだから。」


雫が作った植物や木の実のエキス、もとい痛み止めをガーゼに染み込ませる。


「それ、しみる?」


はなちゃんは少し怯えた顔をしながらかほるをみた。


「しみにくいように作ったとは言ってたよ。」


ガーゼをゆっくり傷口に当てる。力を込めているのかはなちゃんの身体がぷるぷる震えていた。


「力抜いてはなちゃん。傷口開いちゃうから。」


ギュッと閉じていた目を少しだけ開き、はなちゃんはゆっくり深呼吸。


この感じだとしみてはいないようだ。ガーゼを当てて取れないように包帯を巻く。


「はいっ終わり。」


「しみなかった!すごい!かほるちゃんありがとう!」


「いえいえ、また1週間後来るからその時の傷口具合で包帯をとるか決めようね。」


はなちゃんの頭をくしくしと撫でて、かほるは、安静にしてなきゃダメだよと優しく言った。


「わかった!はい!これお代!雫先生にもありがとうございますって言っておいてねっ。」


そういうと小さなモフモフした手からキラキラした青い石が出てきた。



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