夏の鱗

海山 そら

一枚目.薬屋


じりじりと太陽が肌を刺してくるような太陽の熱。

拭いても拭いても湧いてくる汗。夏服とはいえ暑すぎる。セーラー服のスカートを揺らしながら暑さに耐えて前に進む。


「暑すぎる…」


蝉の大合唱で頭がやられそうだ。

やっとの思いで扉を開けると、その瞬間涼しい風と独特の香りが流れた。


「あっおかえり、かほる。」


奥の方からひょこっと顔を出し、雫はまた引っ込んでしまった。コトコトと音がする。


「ただいま戻りましたーーー…涼しいぃ。」


「今日は34度とか言ってたものね。手を洗ってゆっくり涼みなさい。」


雫は神楽之森かぐらのもりの近くで薬屋を営んでいる。森の動物達御用達の薬屋だ。そしてかほるにとって我が家だ。


「作ってるのはお薬ですか?」


「そう。10分煮込んでエキスが取れたら完成なの。」


手を洗い終わったかほるは鍋をのぞき込む。色々な植物、木の実が入っていて色々な匂いがする。


「いい匂いですね。」


「ふふ。そうなの。はなちゃんが最近足の傷が痛むって言っていたから痛め止めをね。この方法だったらしみにくいと思うんだ。」


はなちゃんとは神楽之森かぐらのもりに住む野うさぎである。


「もうすぐ出来上がるから、明るいうちに手当しに行ってくれる?その間に晩御飯作っておくから。」


雫は薬用の小瓶とガーゼを用意し、よろしくねと言った。

かほるはアイスティーを飲み干し、こくりと頷いた。



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