思い出はイブに

その日も今日のようなうっすらと雪が降った日だった。

クリスマスだからせっかくだしイルミネーションでも見て帰ろうか、という彼の提案で少し遠回りだが近道の裏路地ではなく大通りを歩いて帰っていた。

「ねぇ、友之」

「ん?何?」

「このネックレスって……」

「かわいいやろ?雪菜にぴったりやと思って」

シルバーの細いチェーンに小さなイミテーションのダイヤがついた新幹線モチーフのネックレス。

「……電車、好きだね」

「うん、好き」

私のプレゼントに電車のネックレスを選ぶほど彼は電車が好きだった。

電車に乗って、写真を撮って、それを鉄道写真コンテストに出す。

カメラを構える顔は真剣だが、いい写真が取れたらまるでおもちゃを買ってもらった子どもみたいな顔で笑う。

「でも、俺は雪菜の方が電車より好きやで?」

「……ばか」

そして、こんな恥ずかしいことも、率直に言うところも嫌いではなかった。

本当に、子どものような人だった。


大通りの中の小さな広場にはこの町で一番豪華なクリスマスツリーがある。

店から聞こえてくるクリスマスソングや聖歌が喧騒に入り混じった不協和音とツリーを彩る赤と緑のイルミネーションに包まれた町は、日常と非日常の隙間を曖昧にさせる。

待ちゆく人は、どこかフラフラとしてはっきりとしない。

聖夜は人を酔わせる甘美な酒だ。

「ねぇ、友之。次はどこに行く?」

「そうやな……。前は厳島神社に行ったし、次は飛騨高山にでも行ってみる?」

「いいけど、もう電車の接続で一時間駅で待たされるのは嫌だからね」

「高山本線だから大丈夫」

「……それ、前にも聞いて、結局一時間駅で待ったよね」

運が悪かっただけや、と笑う彼。

反省のかけらもないが、それはそれで楽しかったことは心にとどめておく。

「じゃあ、明日、朝7時に着替えもって駅に集合な」

「え、急すぎない?」

「クリスマスに俺と旅行するの、雪菜は嫌なん?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」

「じゃあ、決定!」

これが彼だった。電車に乗ってとりあえず行ってみるという計画性の無さ。

それでもなんだかんだ名物も泊るところもしっかり押さえているから憎めないのだ。

「ほんと、計画性ないよね」

「まぁ、ええやん。俺、もっと雪菜といろんなところ行きたいし」

屈託のない笑みで言う言葉はいつも私を混乱させる。

そして、異様な雰囲気のクリスマスイブは過ぎていく。


はずだった。

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