9話
世間は、私たちを何というだろうか。
脳裏に明日の朝刊の記事が踊った。
「高校生二人が屋上から自殺。早過ぎる死」
心中、友人や教師との不和、将来への絶望。さまざまな憶測を飛び交わせ、私たちを憐れむのだろう。
あるいは責めるだろうか。周りの人々が悲しむことを顧みず、ただ一つの命を投げ捨てた私たちを愚かだと糾弾するだろうか。
「有川はいいの?」
有川は私の手を握って笑った。いまさら、と言ったところだろう。
「俺、ほんとはずっと学校来たかったんだ。でも、いざ外に出たら街ゆく人みんな敵に見えた。全員が俺を冷たい目で睨んでるような、ね。怖くてたまらなくて何度も死のうと思った。どうせ、榊さんも俺なんか待ってないって。でも、もしかしたらって希望を捨てきれなくて、保健室通いだったけどなんとか学校に来たんだ」
一息ついて有川はふふっと笑った。私の目をまっすぐ見て笑うものだから、私は顔を背けてしまった。
「そしたら、榊さんはほんとに待っててくれてた。お礼とかちゃんとしたかったけど、榊さんでさえも周りの人たちと同じでいざ会ってみると恐怖の対象でしかなかった……。
榊さんは言ったよね。将来が不安だって。俺もだよ。このまま、臆病なままで大人になるのが怖い。だから、ここで榊さんと一緒に終わらせたいんだ」
私は、有川の手を握り返して笑った。うまく笑えてないかもしれない。そんなのは関係なかった。
「じゃあ、いこうか」
これからデートに行くカップルのように、軽快な足取りで私は有川の手を引いた。
生きるべきだ。生きてればこれから楽しいことはいくらでもある。
善人を気取った人々や大人は言うけれど、私たちには関係ないの。
生き辛い世の中が悪い。そんな世の中を肯定する人々が悪い。
だから、誰も私たちを否定するべきでない。これが私たちの幸せの道なのだから。
だから、誰も私たちに何かを要求するべきではない。私たちが変わらなければいけない理由なんてあるはずもないから。
今度こそ。
「さよなら」
これは反抗だ。
神様への。そして、スクールカースト、ルール、決まり、暗黙の了解、法律。私たちを縛る様々なものへの反抗だ。
外れたフェンスから身を乗り出す。生まれた国の治安。生まれた時代。家庭環境。私たちは恵まれていた。それでも、死ぬことを選ぶ。
落ちて、落ちた。
歪な音がして世界が白に包まれていく。
__ああ、もう終わりだ。
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