エピローグ

 もう二度と目覚めを迎えることはないと思っていた。寝起きのだるさもまぶたの重さももう経験しないものであるはずだった。


「有川、おはよ」

 身体のそこかしこに包帯を巻いた君がそこにいた。ああ、そうか。俺たちは死ねなかったんだ。


「木に引っかかっちゃったんだって」

 彼女は今にも泣き出しそうな顔をする。ここ数日のうちに何度も見てきたはずの彼女の涙だが、強気な言葉で取り繕ったとて慣れるものではなかった。


「神様がまだ生きろって言ってるのかな」

 俺がそう言うと彼女は少し驚いた顔をしたが、すぐに顔に出さないように笑って言った。


「そうだね」


「俺、榊さんと一緒に生きてみたい」


「暴言吐いちゃうかもよ」


「いいよ。むしろ興奮しちゃうかも」


「有川、ほんとに変態になっちゃうね」


「変態にしたのは榊さんだよ」


 笑うのを我慢するように彼女はじっとしばらくの間黙っていた。じっと見つめられて、顔に熱が集中するのを感じた。ついその真っ直ぐな瞳から目を背けたくなる。


「ねえ」


 俺の手を握って彼女はちょっとの間、下を向いて考えて呟いた。


「私も有川と生きてみたい」


 有川と。その言葉が胸が痛いほどに嬉しくて。抱えていた思いがぐっと喉まで上がってくるような感じがした。


「ずっと言いたかったんだけどさ……」


 言え! 言ってしまえ!


「俺、が好きです!」


 目をつぶって、勢いとその場の雰囲気だけで言ってやった。


 恐る恐る目を開ける。

 視界の真ん中で彼女は宝石のように耀く笑顔を浮かべていた。

「私も。私も有川が好き……」

 彼女を苦しめたあの、罰と名付けられた呪いは既に解かれていた。


 俺は、包帯でぐるぐる巻きの腕でそっと彼女を引き寄せて、優しくキスを落とした。





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